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第64話 ページ14






右端によって1球追加され、9球となったボール。まだ8球しか打てていない越前にとっては未知の領域である。

そしてそれを照明するかのように、越前は右端の打った9つのボールのうち1球を返すことが出来なかった。15-15、これで先ほどの右端のすてた1点は埋まった。




「8個打った程度じゃここでは自慢にならない。上には上がいる。」




30-15、40-15と2回続けての失点。1ゲームでもとられたら負けと言うハンデを背負っている中学生にとってはこれがラストラリーになる。それでも中学生は越前の勝利を信じていた。

じっとその様子を見ていると、「A。」と呼ぶ声。声の主は徳川で、ずっと黙っていた彼が声を発したことに驚き顔を向ける。




「1番近くでアイツの成長を見ていたお前は……どう思う。」




徳川からの真剣な目つきに息が詰まる。目は口ほどにものを言う……その目は彼が越前の力を評価していることを目の背けようの無いほどに表していた。憧れである彼がぱっと出てきた越前を気に入っているという事実に直面し、Aはその目から逃れようと顔をそらす。

鈍感な徳川がそんなことに気づくはずも無く、「どうかしたか?」と再び聞いた。




「……このまま終わるわけないでしょうね。」




例え越前の存在を羨もうと妬もうと、A自身彼にとてつもないまでの能力を感じているのもまた事実だった。高い高い目標を超えようとする姿は自分と何処か似ていて、才能だけじゃなく努力も惜しまない彼をAは評価している。

だからこそいえる、彼はここでは終わらないと。自信を持って断言できるのだ。


Aの心中を知ってか知らずか定かではないが、そうか、と小さく呟いて徳川は笑った。






右端から放たれた9つのボール。まずは8個を的確に返した後、越前は9つ目をラケットに当てた。中学生達は越前を信じ、じっとその光景を見つめる。

雄たけびを上げながらそのボールの重さと格闘した末、越前はそれを打ち返すことに成功した。




中学生が喜びと歓喜に満ちる。しかし試合が決まったわけではない、9球を初めから打つことが出来る右端はそれを打ち返した。

そんな右端の目に映ったのは――もう1球のボールを手に持った越前の姿だった。





「9球打ったくらいじゃ自慢にならないね!」








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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti  
作成日時:2019年1月10日 0時

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