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第63話 ページ13






「俺の右サイドは神の領域。何人たりとも抜かせはせん。」



右端のその発言どおり、越前はずっと右端から点を奪えないでいた。左サイドへ抜こうにも、右端のかける回転により無理矢理右へ打たされてしまう。

そんな代わりばえのないラリーをつづける中、越前が右端に声をかけた。




「ねえ、もうそれ打たなくていいよ。絶対アンタの右側抜くから。てゆーか、もう右側にしか打たない。」




つまり、あえて右端の得意な勝負に乗ってやる、ということ。そしてその条件で絶対に勝つという宣言、その生意気さはもはや賞賛すらしたくなる。

中学生に馬鹿にされたことが頭にきたのか、右端は大きくボールをそらしてフェンスにあてた。それにより越前に点が入るが、もはやそんなこと関係ないらしい。右端は越前に対して地を這うような声で言った。



「絶対に右を抜くだと?よく言う。……お前、複数のボールを同時に打つことが出来るようだな。」

「何言うてんねん、コシマエはなあ、8個同時に打てるんやで!」

「8個?……面白い。1球でも俺の右側を抜くことが出来たらお前の勝ちだ。」




答えたのは遠山であったが、その球数にAは少し驚いた。少し前までは6個を難所としていた彼が今ではもう8個同時に打てるようになっているとは。

「Aちゃんより多いんとちゃうの?」とからかうように聞いてきた種ヶ島の言葉をAは否定できなかった。規格外に成長が早い彼なら、もしかするとこの試合で1球の壁なんて越えて行くかもしれない。そう思ったからだ。




「Aおめェ、いい加減10球打ちはできるようになったのか?」
「自分で打つ分には……だいたい。ラリーはまだしたことないので分かりません。」




鬼からの疑問に、視線を越前に向けたまま答えた。いつものAならそうはしない、きちんと顔を向けてにこやかに答えるのだが……今はそれほどに越前のことが気になるらしい。



右端が8個のボールを打つ。越前はその全ての打球を右に返し、徹底して右を抜く姿勢をみせた。




「俺は右も左も抜かせないから。」
「……どうかな。」




圧倒的に越前に不利な状況の中、右端がもう1つボールを構えた。これで9つ目、越前がまだなしえていない領域だ。越前はどうするかと、Aは固唾を呑んで、そしてどこかで楽しみながらその状況を見つめていた。

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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti  
作成日時:2019年1月10日 0時

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