【テニプリ】 U‐１７の１番コートには女の子がいるみたいです。2 【U‐１７】 (ページ32)

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第８２話ページ32

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一応齋藤に水やりを終えたという報告をしておこうと、Aはコーチ室に足を運んでいた。たどり着いた部屋の入り口をノックし、「失礼します。」と告げてからドアを開ける。

中にいたのは黒部と齋藤で、齋藤だけがこちらに視線を向けた。

「やあAちゃん。」
「水やり終わりましたよ～。一応ご報告にと思って。」
「それはそれは。わざわざありがとうね。」

へらっとした笑みを浮かべる齋藤に、Aは呆れたように笑う。そして部屋を出ようと彼らに背を向けると、「水瀬さん。」と黒部に声をかけられた。

なんですか、という代わりに振り返って黒部を見つめると、ずっと資料を見つめていた瞳がこちらを向く。その鋭さに思わず体が固まる。決して目をそらすことなく、黒部は話した。

「もうじき……彼らが帰ってきます。」

そしてその言葉を聞いて、固まっていたからだが大きく揺れた。鼓動が早くなって、うるさいほどに心臓が跳ねる音が聞こえる。脳裏にフラッシュバックした顔を、声を、光景を、全てをかき消すようにAは耳を塞いだ。

齋藤は心配そうながらも真剣な面持ちでいる。黒部も表情を変えることなく、じっとAをみて続けた。

「そろそろ向き合わなければならないのではないですか、過去と。」
「……分かって、ます。私だって……充分。」

半ば自棄になりながらAは言葉を返した。相手が黒部であるとか、そんなこと今のAの頭にはない。ただ脳内を支配するあの嫌な記憶を消し去りたい、それだけだ。

精一杯な彼女の姿に黒部は短くため息をついた。齋藤もなんともいえない面持ちで黒部を見ながら後頭部をかく。

「失礼します。」と、なんとか振り絞ったその言葉を残してAは部屋を出た。

Aのいなくなった室内、黒部はまたため息をついた。幸せ逃げるよ、なんてへらりと笑う齋藤の言葉に耳を傾けているのかいないのか、「困りましたね。」と呟く。黒部の手元には英語で書かれた文書があった。

アメリカ女子プロチーム、スカウト……様々な英単語が並ぶ文書の存在をAは知らない。

Aの腹部に傷を残したあの男が海外から戻ってくるその時は刻一刻と迫っていた。

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