第68話 ページ18
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「いつかのサーブ、打ってきてよ。」
「……その価値があるかどうかは俺が判断する。」
あまりに真面目な徳川の返事に顔をしかめた越前。徳川もそうはいいつつ、初っ端から虹色のサーブを放ってみせた。
「サンキュ、先輩。」と呟きながら越前がそれを返す。Aが徳川から話を聞いたときはあのサーブを返すことも真似をすることもできなかったと言っていたはず……地獄の特訓の成果は想像以上に大きいらしい。
数回のラリーを繰り返し、徳川が球数を増やす。5つになったボールに対抗するように越前も5つのボールを打ち、お互いを相殺した。
コートにころがる10個の球。そのうちの1つをラケットで拾いながら、「ちょっとは成長したようだな、越前リョーマ。」と徳川は話しかける。ぽん、ぽんと低くラケット上でドリブルをする徳川はどこか楽しそうだ。
「俺も1年前、その黒ジャージをきて戻ってきた。Aと一緒にな。」
徳川からの言葉に越前は驚きをみせた。Aが崖の上での特訓を経験済みであったことから彼女が這い上がってきた者だということは知っていたはず、まさか徳川もだとは思って居なかったらしい。
三船が元気だったかと聞く徳川に、越前は元気すぎだと応えた。続けて地獄の特訓の感想を聞き、楽しかったと言う越前。その言葉にふっと笑った徳川が「だろうな。」といい、続けた。
「お前なら入道コーチに会う意味があると思った。」
「どういうことっスか?」
「誰よりも負けることが嫌いで、だが負けると心のどこかでわくわくする。」
徳川からの言葉を受け、越前がAのほうをちらっと向いた。ただ2人のことを見ていたAがそれに肩を跳ねさせると、越前はジトッと目を細めて言う。
「それ、Aサンからも言われたっス。ていうか徳川さんは違うの?」
「同じだ。お前にそういったAもな。……悔しいが、わくわくする。」
「勝手に仲間入りさせないでくださいよ。」
徳川の言葉にへえ、とAをみて呟いた越前。そして今度は徳川に視線を向けると、「どうして?」と疑問を投げた。
「次に倒したとき、2倍スカッとする。」
「へぇ、じゃあ今日は俺、正に2倍スカッとできるね。」
越前の言葉に、もてあそんでいたボールをつかむと徳川がはっきり告げる。初めて越前と交わした言葉を。ただその目は当時の侮蔑の眼差しとは違い、まっすぐ越前を見ていた。
「……帰りたいのか?」
「アンタに勝ってね。」
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年1月10日 0時