12本のアネモネを君に

名案5 ページ37

Aside



何故だろうか…さっきまで泣きそうで、胸の奥が痛かったはずなのに、吉沢くんに強引に振り回されて、いつの間にか沈んだ気持ちはどこかにいってしまった。

彼と一緒に美味しいご飯を食べていると、また明日から物件探し頑張らなきゃ…という気持ちになって、自分でも単純だなって思うけど、それ以上に彼に会えて良かったと思えた。



そういえば、昔からそうだ…気持ちが落ち込んだとしても、それが気にならないほど彼に振り回され、気付けば彼のペースで、思いつめていることが馬鹿らしくなる。

吉沢くんには、人を元気にする力があるのかも…なんて思っていた時、先に食べ終わった吉沢くんに、「A、俺すげぇ良い物件見つけたんだけど…」と言われ、思わず箸を置いて食い気味になった。


『え、ほんと？家賃とか安い？』

「あー…もしかしたらタダ同然かもな」

『え、うそ！？そんなとこあるの？すごい！』

「ただな、そこ…条件があるんだよ」

『条件？どういう条件？』

「シェアハウスなんだけど、家事全般…やんなきゃなんねぇの」

『シェアハウスかぁ…誰かと住むのって逆に楽しそう！家事なら私得意だし、全然大丈夫だよ！』

「あとな、朝はシェア相手のこと起こさなきゃなんねぇし、色々世話やいて欲しいわけ」

『ふふ、寝坊助さんなんだね〜私早起き慣れてるし、一緒に住むことになるんだから、私ができることなら何でもやるよ？』

「何でも…な…よし、じゃあ決まりだな」

『え、あ…うん…？』

「A、ようこそ我が家へ」

『………え？』

「何でもしてくれんだろ？とりあえず帰ったら俺の肩もみよろしく…最近すげー凝ってんだよ」

『…待って、待って、吉沢くん…え、シェアハウスの相手って…』

「俺に決まってんだろ」



そう言った吉沢くんは、今まで見てきた中で

1番意地悪そうな顔で私に笑った。


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