歳上部下の憂鬱【二】

97話、犬猿with作戦 ページ48

「離してください太宰さん！」

「だぁめ！ 離したら君達、異能で喧嘩するでしょ？」




山中の道路を走る一台のトラック。その荷台の中には、太宰に首根っこを掴まれた中島と、正座したAに肩を掴まれている芥川がいた。因みに、運転手は国木田である。


皆が存じているように、中島と芥川は犬猿の仲だ。しかし今日は何故か、噛み付いているのは中島だけで、芥川は腕を組んだまま荷台の角を睨んでいる。



「でも！」

「イタタタ！ あまり暴れないでくれたまえ。お腹の傷が開くぅ」

「社長の命がかかった逆襲作戦に、何故芥川を…！？」

『それが作戦だからですね』

「君達二人で、敵のアジトに潜ってもらう」



そのアジトは古い炭鉱跡にあり、中には侵入対策の罠がこれでもかと仕掛けられている。最優先されるのはウイルス異能力者の捕縛、第二にフョードルである。しかし何故かと中島は問う。



「そんな重要な作戦なら尚更です。だって、芥川の僕への憎悪は尋常じゃありませんよ！」



作戦が成立するわけがない、と話す中島の顔は「正気か？」とでも言いたげだった。



『だそうですが。芥川くん』

「……作戦を、遂行します」



物凄い気迫と共に、押し出されたような声。芥川は酷く集中しているようだった。



「私達の直轄麾下は四年ぶりだね。少しはできるようになったところを、見せて貰おうかな」

「…はい」



中島は異常なものを見る目で、芥川を見る。



「お前、芥川だよな？」

「嗚呼」

「…僕と協力して戦う気か？」

「嗚呼」

「……昨日の晩御飯、何食べた？」

「嗚呼」

「…オイ」



▽▲▽



アジトの入り口には、尋常じゃない数の見張りがいた。全員が音声無線機を持っており、トンネルの壁に取り付けられたセンサーは谷崎の異能力対策、一人一人の生体信号までもが一分おきに本部に送信されている。


始めの段階から、難関が襲ってきている。



「人虎。二点のみ記憶せよ。遅れれば捨て置く。邪魔すれば殺す。…良いな？」



そう言った芥川の外套から二本の【羅生門】が伸びる。蜘蛛の足のように立ち上がったそれは、芥川を持ち上げ、トンネルの上まで運んでしまった。



『敦くん、置いていかれましたよ』

「ハッ！ 僕も行きます！」

「だが敦、お前どうやって…」



国木田が引き止めようとするが、その間にも中島の足が虎化する。そして、地面を蹴り、跳ぶ。その速さは、もはや人間や、機械すらも認知できぬものだった。

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