96話、死なずとも ページ47
与謝野達はこのことを知っているだろうか。何方にせよ帰還し、消えた二人を探すのが先決である。
「安心しろ。私はただ、此処に一服しに来ただけだ」
暗に「会ったことは黙っておいてやる」と言われている。しかしそれはありがたい。個々の強さは如何であれ、次から次へと湧いてこられては手が足りなくなる。
「中原幹部はどうした」
『名探偵と推理勝負です』
「…そうか」
『彼等なら必ず戻りますよ』
まるで、何方も信用しているような言い方。
何を考えているか分からない男の顔は、相変わらずだ。そんな奴の顔が、一度だけ崩れかけたのを見た事は一生忘れないだろう。
『では、失礼します』
「…嗚呼」
広津に攻撃の意思がない事を察したAは、あっさりと背を向けて出口に戻る。慣れた紫煙を吸い込みながら、広津は懐かしい夕日色の髪を見流した。
▽▲▽
出口から出るまで攻撃してくる構成員はおらず、何とも楽に脱出できた。石造りの階段に捨て置かれたバズーカをケースにしまい、Aが探偵社に戻ろうとすると、携帯が鳴った。
『はい、津島です』
【もしもし〜?A〜?】
『そうです。要件は?』
【場所は私が入院してる病院。今すぐだ】
『…承知致しました』
何かを見つけたようだ。
携帯を耳に当てたまま、探偵社に向かおうとしている足の方向を変え、歩き出す。近場でタクシーでも拾うとしよう。
『そういえば、治くん』
【ん?】
『怪我の様子はどうです』
【上々だよ。明日には動けるね】
『…くれぐれも気を付けて、と言ったと思うのですが』
ギクリ、と太宰は病院のベッドの上で肩を跳ねさせる。Aの淡々とした声が逆に怖かった。恐らく彼は、太宰が魔人“フョードル・ドストエフスキー”から情報を得る為にわざと攻撃を受けた事を察している。
【あ、あーっと! 電波が、わ、悪いようだ、ね!】
『………』
【聞こえないなぁ! それじゃあ!】
下手な演技と共に、プツリと携帯が切れる。本当に焦っているのか怪しいところだが、まあいいだろう。
見舞い品に何か買っていこうと足を進めていると、菓子屋の店先の看板が目に入った。
“リアルでびっくり!?
いらっしゃいませ、と売り子の女性が笑顔で話しかけてくる。窓から見える菓子達は、皆“犬”の形をした物ばかり。
これを渡された上司の顔を想像すると、何故か小さく笑ってしまった。
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雪山(プロフ) - ラムネさん» ものすごい勢いのお褒めの言葉、ありがとございます!これからも頑張ります! (2022年11月22日 21時) (レス) id: e986202370 (このIDを非表示/違反報告)
ラムネ - もうこの作品大好き!!ああああああ!!もうなんなの!歳上なのに部下とか!好き!!そして男主の性格好み過ぎな?もうこの作品神!そしてこの作品生み出した雪山さんはもう神以上!更新頑張ってくださいいいいい! (2022年11月22日 19時) (レス) @page27 id: be178889d7 (このIDを非表示/違反報告)
雪山(プロフ) - Yasi123さん» なんて嬉しいお言葉…!これからも励んでいきます。 (2022年9月15日 20時) (レス) id: e986202370 (このIDを非表示/違反報告)
Yasi123(プロフ) - 最近見させていただいています。とても面白いくてめっちゃ好きです。男主くんのキャラがすごい好きです。頑張ってください (2022年9月14日 22時) (レス) id: ea7056b992 (このIDを非表示/違反報告)
雪山(プロフ) - elliscat810さん» 嬉しくて舞い上がってしまいました。コメントありがとうございます。 (2022年8月30日 14時) (レス) id: e986202370 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪山 | 作成日時:2022年5月20日 17時