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am10:30-chess time- ページ10

『ここにはチェス盤も何も無いぞ』

『はい、ですがスマホで対戦できるので』

『……はあ、まあいい機会だしな。free WiFi繋いでくるから少し待っていてくれ』

『ああ。それなら私に、いえ私のスマホと繋げればいいですよ、名前とパスワードは……』

Aが間髪入れずに告げると、急ぎながらも一回で全て覚えたらしい浅野はA"自身"の回線に繋げた。

それもこれもただたんに手っ取り早いから自身のものを教えただけなのだが。

『繋がった。それで、アプリはどれだ』

Aが浅野にアプリを教えると、さっさとアカウントを作り対戦を始める。

『ゲームを入れたのは初めてだ』

時間が無駄だからな。と少々馬鹿にしたような顔で言うと、Aは怒ったように眉を寄せた。

『ゲームは楽しいので無駄じゃありませんー』

ちょっと抜けたところ、所謂アホを発動すると、そのままゲームを開始した。

8×8で構成された白黒の盤の上に並べられた駒達。やはりリアルでやらないと迫力に欠ける。

『学秀。今回の試合はプレです、若干しょぼいので今度はしっかりとした盤の上で戦いましょう』

『まあいいだろう。それかストックホルムの王立公園にある巨大な盤でも使うか?』

『ふふ、確かにあれくらいが面白いかもしれませんね』

おおよそ冗談を言っている顔ではない。
お互いの顔はひんやりとどこか冷たい印象で、喫茶の一角で氷のような戦いが始まった。

静かな空間に軽快なタップ音、跳んで減っていく駒達。

"予測→最善か賭け"

機械といえども相手の隙をついて賭けに行くことも出来る。悪手ではあるがそれも戦略。

最後に場に残ったのは四つのコマ。
Aの白のキングとビショップ。
浅野の黒のキングとビショップ。

押して、引いて、避けて、そして取る。

Aのビショップが浅野に取られ場から無くなる。

額には汗。

キング二個とビショップ一個。この組み合わせが生じたらすぐにステイメイト。いわゆる、

『ドロー……か。』

『まさかステイメイトになるとは思いませんでした』

長針はもう三十分を刻んでいた。

『……余計に気になるな、君がなぜ底辺のE組なんかにいるのか』

『貴方との対戦はとても良いデータになる……』

Aの前で浅野の態度が軟化するのは恐ろしいまでに測りきれない力量のせいだろう。この相手になら負けても納得ができる、そう思わせてしまうような初めての相手。

『次は持ち時間二時間でやるか』

『日が暮れます』

am11:05ーhitting onー→←am10:20-tea time-



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作者名:天泣tenkyu | 作成日時:2019年6月14日 22時

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