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はじまり ページ46

視界にゆらゆらと光がはじけた。
物語でも読んでいたかのような感覚に夢でもみたのだろうと薄目を開けると、カーテンの隙間から朝日がのぞいていた。

秋が過ぎ冬を超えて、王都はすっかりと柔らかい風を運ぶ春になっていた。
春の風や日差しはやわらかいシルクのようだとつくづく思う。

侍女が窓をすこし開けるのをぼんやりと眺めながら、いそいそと絹をまとう。
近くでお茶の準備をしている別の侍女は、綺麗にまとめた栗毛に水色の宝石の髪飾りをつけていた。

日差しに当たるときらめくそれは、朝方のつららに似て冷たい輝きだった。
市場に出されてから一躍話題になった薄青い晶洞(ジオード)は、私の名前がついているらしい、もちろんらしいといっても許可を出したのは私だが。

特に公務もない日だからと一人でも着ることのできる簡素な服に着替えると、新調した若草色のタイを結んだ。

「今日のスケジュールでございます」

渡された紙に目を通すと、いつもの文字列に何やら変わった予定が組み込まれていた。

「兄上の視察の見送り……? だいぶ急ね、どれくらい不在なのかしら」

三月(みつき)ほど滞在するようです」

「あら、ご帰還は……薬剤師試験が終わったころか、数日後にはっさそくゼンお兄様がお散歩に行ってしまいそうね」

咎めるような口調のわりに楽しげな笑いがこぼれた。

三つも月が過ぎたころには兄上が帰り、新しい薬剤師も採用されている……はずである。
能力的に見合わなければ誰一人受からないことだってあり得るのだ。

なにより私は”いい感じ”の性格の人間が薬室に入ってきてくれないと困る。
私と薬室長がお茶をしていたり、リュウに会いに行っても騒いだり変に吹聴したりしない人でないと困る。まあつまり噂好きの貴族じゃなければいいしそもそもそんな人はなかなか受けに来ない。

試験に口出しなんかはしないが、試験の準備に追われている薬室に訪れるのも気が引けるし……いや、あのガラク先生のことだ試験内容だってぎりぎりまで大まかなことしか決めないだろう。論文と患者のことで頭がいっぱいのはず。

そんな失礼なことを考えつつ、私は紙を返し紅茶に口を付けた。

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天泣tenkyu(プロフ) - 黒髪の白雪姫さん» こちらの作品も読んで頂けるとはっ、とても嬉しいですありがとうございます(*^_^*) (2018年2月5日 23時) (レス) id: 141d644f20 (このIDを非表示/違反報告)
黒髪の白雪姫 - お久しぶりです(〃^ー^〃)この作品にお邪魔します♪凄く面白いです!( ^ω^ ) (2018年2月4日 16時) (レス) id: efdbcf38a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天泣 | 作成日時:2017年11月29日 22時

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