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ページ45

私はA。
でも、私は王女だった。

皆が求めるのはA・ウィスタリア・クラリネスであってただの少女Aではなかった。

子供っぽい要求だなんて自嘲してはいたけれど、それでも人並みに誰かに甘えたかった。

私はやがて学問街の薬学の館へと入り浸るようになった。
近場だったし、何より私は植物が好きだった。

自由に咲いているように見えて制約が多い、自分と重ねていたのかもしれない。

その場所では身分を隠していたわけじゃないけれど、”そういう”風に振舞わなければ相手がわざわざ貴族扱いしてこないことは知っていた。


初めて自由になった気分だった。


私室の大きな書架に本をしまいながら、金細工のように繊細な葉の絵が書かれた表紙をなぞる。
私がいちばん大切にしている、思い出深い本。私が植物に興味を持ったきっかけの本。


一度だけ、時間も忘れて本を読んでいたら、通りがかった学者に君はお父上に似ているねと言われたことがある。


茶色を帯びた黒髪の男性だった。
そのまるでただの子供に向けるような優しげな眼は、今まで家族以外に向けられたことのない暖かいものだった。

どこか懐かしくて、不信感は持てなかった。

「おかあさま、綺麗な緑の目をした学者がおとうさまのそばに仕えていたことはある?」

と夕食の席で聞くと、あの人は昔この王城に仕えていた薬剤師だと知った。
少し前に体を悪くしてやめてしまったけれど、研究者気質で子供好きだとも、私たちが生まれた時もたいそう喜んでいたということも知った。

私が幼いころからよりどころにしていた植物図鑑は、きっとあの人がくれたものなんだろうなと、漠然とそう思った。

あの表紙にある金色の葉の絵を見るたびに思う。
葉脈は人間で言う血管だ。生きるために必要な線、命の線。
運命のようだとも思う。たまに弧を描き、枝分かれし、途絶える、絡み合う運命の糸。

「きみ、だれ」

その日、私の運命の糸はまた新しい絆を運んできた。

あの人と同じ髪と瞳の少年だった。

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天泣tenkyu(プロフ) - 黒髪の白雪姫さん» こちらの作品も読んで頂けるとはっ、とても嬉しいですありがとうございます(*^_^*) (2018年2月5日 23時) (レス) id: 141d644f20 (このIDを非表示/違反報告)
黒髪の白雪姫 - お久しぶりです(〃^ー^〃)この作品にお邪魔します♪凄く面白いです!( ^ω^ ) (2018年2月4日 16時) (レス) id: efdbcf38a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天泣 | 作成日時:2017年11月29日 22時

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