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琥珀に沈む ページ44

白い雪は夜の濃紺を反射して淡い青を放っている。
ざくざくとおぼつかない足取りで踏みしめる地面は水っぽくぬかるんで、まるで私を引き留めるようだった。

数年前、前王が崩御してしばらくした頃だった。
お母様と共に北の城に来たばかりだった私はどこか言いようのない寂しさに沈んでいて、心にぽっかりと穴があいてしまったような状態で過ごしていた。

お父様はもういない、兄二人もいない、見知らぬ人に囲まれて常に気を張る毎日。
王族とはいえ年端のいかない少女が耐えうる孤独感であったのかどうかは今の私でもわからない。

私は気を紛らわすように書庫にこもり、意味がないとわかっていてもお父様のいたころの温かさをどうしようもなく追憶していた。

その日も変わらず重たい本を侍従に抱えさせて、雪の中別棟にある書庫から帰るところだった。

「あなた、だれ」

角を曲がった先に不自然にたたずんでいた男がいた。

知らない人物と会話することは多々あったけれど、目の前に立つ男のどこか異様な雰囲気を感じた私は喉に張り付いた声をかろうじて出すことしかできなかった。

悪意にさらされることは少なかった、まだ幼かったから。それでも独特の緊張感やあの無機質な瞳を私は見慣れていた。

幼い精神が耐えきれなかったのか、そのあと覚えていたのは銀の刃が緩慢な動きで振り上げられる光景と私を守った人の血液がゆっくりと流れていくさま、目の覚めるような悲鳴だけだった。

あの日、自分の命の危うさを知った。

警戒心なしで出歩くことはあの日以来ほとんどない。今となっては護衛となったガレスと絶対に離れることはないし、護身用の短剣だって手放せない。

もちろん襲われたのなんてあれが最後ではなかった。

私は政治用の駒としては最高級品だったから。
他国の王族や国内の有力貴族、私は誰とでも婚姻を結べる地位の人間だ。
もちろん権力の偏りを避けるために実際はどこにでも、というわけにはいかないけれど。

そして次期国王となる兄たちとも良好な関係を築いていから、抱きこめば王級内での権力は高まるだろう。

私はいつだって商品だった。美しく可憐で、素晴らしい力を持ったお人形。

一歩踏み出す勇気もないくせに、自分の殻に閉じこもってただひたすら”人形”から抜け出したくて足掻いていた。

美しい、かわいらしいと大人たちに言われて、何とも言えない気持ちを隠しながら微笑んで。
彼らの間にまじって心から笑うことはもうだいぶ昔からあきらめていた。

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天泣tenkyu(プロフ) - 黒髪の白雪姫さん» こちらの作品も読んで頂けるとはっ、とても嬉しいですありがとうございます(*^_^*) (2018年2月5日 23時) (レス) id: 141d644f20 (このIDを非表示/違反報告)
黒髪の白雪姫 - お久しぶりです(〃^ー^〃)この作品にお邪魔します♪凄く面白いです!( ^ω^ ) (2018年2月4日 16時) (レス) id: efdbcf38a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天泣 | 作成日時:2017年11月29日 22時

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