+ ページ39
肌を撫ぜる潮気を含んだ風が心地いい。高く結い上げた銀髪が風にさらわれてふわりと広がった。
人に当たりそうになるのを両手で抱え込むと、隣を歩くゼンお兄様にくすりと笑われる。
「お兄様、今日はどこに向かわれますの?」
「馴染みのルートで街を案内しようと思ってな、良い裏道がある」
お兄様はそういうと青い影が落ちる白壁の裏道を歩いていく。光と風の届くやや高台の裏道はリンゴのたくさん入った木箱を抱えた女性や絹織りを運んでいる人が行き来している。
どうやら店の裏口ともつながっている場所らしい。
「城下でも昼間は人通りが少ないところでな、逆に朝来ると人であふれかえってる」
「もしかして朝来たことが……?」
「……一度だけな」
「側近が泣きますよ」「警備隊が巡回してるから大丈夫だ」
「じゃあ今度私もつれてきてください」
そんなことを話していると、白い蝶がお兄様の目の前を横切った。
うろこのように遊色効果を持つ翅が虹色に反射する。
「蛋白蝶だ……」「知ってるのか?」
「夏に南の方からくる珍しい蝶ですよ。乱獲されて数が減っていると聞きましたが、今もいるんですね」
「Aは物知りだな……」
「北で研究職の手伝いをしているときに本で読みましたわ」
「そうか、向こうは学問街があるもんな」
「入り浸ってましたからね……ほら、このように手で風を作ると乗ってきます」
風で仰ぐとその風に乗って蝶が私の手の上にとまる。
「……画家でも呼ぶか」
絵になるだなんて呟くお兄様に蝶を飛ばす。
「そういうときだけ気軽にお貴族様感覚を出してこないでくださ……い」
ぶわっと潮風がふくらむ。
「っわ! すっごい!」「だろ?」
コバルトブルーの海がきらきらと輝いている。商船が帆をはためかせているのが遠目に確認できた。
「ここから町と海が見渡せる、穴場なんだ」
視界が開けた場所には小さな広場に一本の木、夏の夜にはたまに出店が出ているらしい。
この穴場で今過ごしているのはチェロを弾く老人と絵を描く青年の二人だけだった。
また別の方向を見渡すと赤屋根の街が見渡せた。
道行く人々と住宅街、商店街に踊り子の姿まで見れる。
「よし、どこに行きたい? どこでも案内するぞ」
「じゃあ……お兄様が一番好きなところ!」
「ははっなんだそれ」
年甲斐もなくお兄様の手を引いて階段を下りる。
私とお兄様の休日は始まったばかりだ。
81人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
天泣tenkyu(プロフ) - 黒髪の白雪姫さん» こちらの作品も読んで頂けるとはっ、とても嬉しいですありがとうございます(*^_^*) (2018年2月5日 23時) (レス) id: 141d644f20 (このIDを非表示/違反報告)
黒髪の白雪姫 - お久しぶりです(〃^ー^〃)この作品にお邪魔します♪凄く面白いです!( ^ω^ ) (2018年2月4日 16時) (レス) id: efdbcf38a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:天泣 | 作成日時:2017年11月29日 22時