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優しい風が窓から入り込んでくる。
青空が窓の向こうに広く続いていて、笛のような高く澄んだ鳥の声が心地良い。
さえずる鳥が近くの木にとまって、愛嬌たっぷりに歌っている。
「今日は天気がいいわね」
鳥用に水差しでも置いておこうかしらと羽ペンを持つ手を休めた。
こんな日は確かに気分が良いわね。
背もたれに寄りかかって女中からお茶を受け取ったガレスを横に目を閉じる。
「そうですね、こんな日は脱走日和です」
ガレスが笑って言うものだから、とじた瞼を開けて、茶器を置くその姿を眺めた。
「それは私ではなくゼンお兄様に言ってちょうだい」
「姫も少しは息抜きを覚えては? という意味ですよ」
「ふん……確かにいいわ、ここは心優しい側近の言葉に従って少し息抜きを覚えようかしら」
***
「お兄様! 今度の
「お前ってやつは……」
「いいじゃないですか」
自分の言ったことをさっさと行動に起こす主人を眺めながら、自分はかすかに笑っていた。
長いこと離れていたからと兄妹間の仲を気にしたこともあったが、最近は以前よりゼン殿下ともイザナ殿下とも打ち解けている様子が見受けられる。
この調子で気を抜ける相手が増えてくれれば万々歳なんだけどなぁ。
「まあいいか、ただし兄上には一言いうぞ」
「承知いたしました!」
姫は普段着だからとつかむ裾がないことに気づき、令嬢のお辞儀ではなく騎士の礼をした。
だめだ、何しても様になってる上にかわいい。
「お前が男装に目覚めたら何人かの令嬢は死ぬな」
「動きやすいですししたいところですがハルカ候にぶつくさいわれたので」
「……もっとお淑やかな妹だと思ってたよ」
「幻想ですよ」
本当に王族の兄妹か? と言いたくなってしまうのには蓋をしよう。
実際隣国のロナ姫とユジナ王子はとても仲が良いと聞きますしね。
「身分隠さないで行ってるけど良いよな?」
「大丈夫ですとも。私も城下の皆さんと顔見知りになりたいです! ほら、例の森の中の喫茶店とか!」
「なんでそれを知ってるんだ……お前の情報網の広さに今戦慄してる」
「貴族令嬢の刃は情報です」
そんなやり取りをしているお二方を眺めるが、事実姫の情報網は並外れている。
もしゼン殿下のひいきにしている店をそう簡単に知れたとしたら、待ち伏せされたりするに決まっている。
姫は刃を研ぎ過ぎなんです。
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天泣tenkyu(プロフ) - 黒髪の白雪姫さん» こちらの作品も読んで頂けるとはっ、とても嬉しいですありがとうございます(*^_^*) (2018年2月5日 23時) (レス) id: 141d644f20 (このIDを非表示/違反報告)
黒髪の白雪姫 - お久しぶりです(〃^ー^〃)この作品にお邪魔します♪凄く面白いです!( ^ω^ ) (2018年2月4日 16時) (レス) id: efdbcf38a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天泣 | 作成日時:2017年11月29日 22時