+冬、深まる+ ページ17
ほうっ息を吐き出すと、明瞭な視界に白が広がる。もやの向こう側には濃紺の空に輝く星が浮かんでいた。
今日は聖夜祭。王族である私にとって、楽しくもあり大変疲れる祭事である。
神様が生まれた日、その誕生日を祝い行われるのが冬の十二月二十四日に行われる聖夜祭。
バルコニーで一人喧騒から離れる私は、A・ウィスタリア・クラリネス。
フォルティシア大陸にあるクラリネス王国の第一王女。
城で行われる舞踏会に出席させられ、例年通り忙しいこの祭りにうんざりしていた。
毎年祭事の時はこちらに戻って来ていたから慣れたものだけれど、相変わらず疲れるわ。
そのうえ、舞踏会の少し前まで毒殺未遂で寝込んでいたこともあって気遣う貴族との話が長引いて余計に疲れたわ。
義務的なダンスも踊ったからと、私は一度広間から離れるために休憩場所のバルコニーに移動した。
ガレスは女性に囲まれるのを避けたいようだったから、護衛を口実に離さないでおいた。
冷たい夜風が頬をなで、私の髪を揺らす。
兄達より青みの強い髪色で、ゼンお兄様よりも白銀に近い色をしている。
瞳の色は、二人の兄とは違い私だけが薄い青。
このまま月の光に溶けそうなくらい彩度が低くて色彩が淡い私の姿。
なんでこうも違うのかしら……意思の強い深い青の瞳、温かみのある薄い金髪。
少し兄達が羨ましい時もあるわ。
「A様、こんな所においででしたか」
突然、背後から耳にまとわりつくような、言いようのない不快感を与える声が届いた。
私は微動だにせず、そのまま夜空を眺める。
後ろを向くまでもない。
低い身分の貴族が社交界で私より先に発言するのはマナー違反。
「A様の髪は迷ったときに導いてくれる月の光のように美しいですね」
面白みもない歯が浮くような言葉。
それにガレスより家格が低いのにガレスのことを完全に無視しているし、失礼な男。
兄たちなら嫌味くらい言いそうなものだけれど。
くだらなすぎて、歯牙にかけるまでもないわね。
私は振り向かず、羽飾りのついたレースの扇を口元で広げた。後ろ向きだが男はそれに気づき、荒々しく下がった気配を背に感じる。
これは社交界で女性が使う話しかけないでの意だ。
「シスク伯爵家次期当主の巳空。たしか三人の子息がいる家よね」
「はい、最近財産の消失が目立ってきている家です」
「教育係を雇うお金もないのかしら」
「自分に絶対的な自信があるんですよ、ああいう方は」
「……ふうん」
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天泣tenkyu(プロフ) - 黒髪の白雪姫さん» こちらの作品も読んで頂けるとはっ、とても嬉しいですありがとうございます(*^_^*) (2018年2月5日 23時) (レス) id: 141d644f20 (このIDを非表示/違反報告)
黒髪の白雪姫 - お久しぶりです(〃^ー^〃)この作品にお邪魔します♪凄く面白いです!( ^ω^ ) (2018年2月4日 16時) (レス) id: efdbcf38a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天泣 | 作成日時:2017年11月29日 22時