さんじゅし ページ34
なんで、こんなことに。
なんで。
ヒーローになるなんて、言っておいて。
焦凍は廊下に尻もちをついたまま、
ぎゅうと、手を強く握る。
エンデヴァーは、ばつの悪そうな顔をして、
様子を見に行ってしまった。
けれど焦凍は、そこから、動くことさえできなくて。
ただ、ふがいない自分を、呪っていた。
助けるって。
守るって。
約束したのに。
縁側から見えたのは、皮肉なまでに
大きくて美しい月。
あの日も、こんな夜だった。
焦凍は、自分のしてしまったことが、信じられなかった。
けれど、覚えている。
喉が渇くまで叫び、ただひたすらに、
父だけを見て拳を放ったこと。
次の瞬間、感じた骨の音。
焦げ付く肉の匂い。
心をつんざくような、Aの泣き声。
燃え移る炎。
消えていくAの姿。
鮮明に、覚えている。
Aを傷つけたのは、自分だ。
Aを泣かせたのは。
Aを怖がらせたのは。
「あ.....あぁ....。」
Aの姿が、脳裏をよぎる。
約束した日の、月夜に照らされた、美しい顔。
祭りにはしゃぐAの喋り声、
眠たそうな瞼にさえぎられた、硝子色の瞳。
おいしそうに焼き芋を頬張る、その笑顔。
守りたいと思った。
誰にも触れさせたくない、自分だけの宝もの。
『しょーとくん！！』
Aの、白い指が。
自分の手に置かれた、華奢な肩が。
あの、笑顔が。
すべて、納得した時。
すべて、分かってしまった時。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁっぁぁっぁあぁぁっぁぁぁぁぁっぁっぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁ!!!!!!!!」
焦凍は泣き叫んだ。
喉がつぶれるほどに。
握られた手から、血が出るほど強く握りしめて、
焦凍は、叫んだ。
自分のせいだ。
自分が、弱かったから。
だから、Aを。
つんざくような悲鳴が、混ざり合う。
幼い二人には、
約束の鎖で結ばれた二人には、
あまりにも、苦い。
一生忘れられない、心の傷。
_______ごめんなさい。
二人は心の中で叫び続ける。
守れなくて、ごめんなさい。
私が
弱かったせいで。
僕が
夜の闇に、二人の子供の泣き声が吸い込まれていった。
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作者名：雪兎 | 作成日時：2017年7月1日 20時
