にじゅきゅ ページ29
焦凍は堰を切ったように話し出した。
お父さんのこと、お母さんのこと、
修行のこと、ヒーローのこと。
今までため込んでいたすべてを、
どろどろとした感情を、
すべてぶちまけた。
そうすると、
焦凍の瞳からは涙があふれてくる。
かっこ悪い。
焦凍は、ぐいぐいと何回も目をこすってみたけれど、
あふれ出た涙は、あふれ出た感情は、
とまることを知らない。
そんな焦凍を、Aはずっと撫で続けていた。
黙って全部、聞いていた。
Aは、Aは、
全然、気が付けなかった自分に憤りを覚えた。
隣にいたのに、ずっと、一緒にいたのに。
焦凍の苦悩も、傷も、心の中も、
なにも、気づけなかった。
「Aちゃっ...!!Aちゃん...!!
僕、僕....!!!」
ヒーローに、なれるのかな。
やめて。
やめてよ。
そんなこと、言わないで。
焦凍は、Aのことを、何回も助け出した。
心も、体も、全部、あっためてくれた。
その焦凍が、こんなに弱音を吐いて、泣いている。
なぜ私は、何もできないのか。
撫でるだけの自分が、
声をかけることしかできない自分が、
なにも、気づけなかった自分が、
酷く、憎い。
Aは耳をふさぎたくなる。
そんなこと言わないでって、
もうやめてって。
『しょーと、くん。しょーとくん...!!』
けれど、結局何も言えなくて、
ただただ、名前を呼ぶだけ。
口をパクパクさせて、
息を吸おうとするだけ。
情けない。
ヒーローになれないのは、自分だ。
助けてあげたいのに。
Aは、
泣いている焦凍に、何もすることが出来なかった。
「ここで何をしている。」
『「!!!!!」』
そして。
そして。
『えん、でば......。』
動き出してしまった時計の針は、
もう、戻れない。
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作者名：雪兎 | 作成日時：2017年7月1日 20時
