にじゅろく ページ26
あつい
あつい あつい あつい
いたい いたい いたい
くるしい たすけて たすけてよ
こうなったのは、こうなってしまったのは、
いったいだれのせい?
__________
「今までどこに行ってたの?
ホントに心配したんだから!!」
同時刻。
Aは驚いていた。
祭りから帰宅してみれば、玄関に見慣れた靴が二つ。
まさかとは思って部屋に飛びこめば、
案の定、両親がそこにはいた。
何か月かぶりに姿を見せた両親に、
Aはどうしようもなく嬉しくなって、
思いっきり、抱き着いた。
話したいことがたくさんあったAは、
精一杯伝えようとしてみるも、
感動で何も言えずにただただ甘える。
そして、そんなAを、Aの両親は
黙って受け入れた。
でも、どうして急に。
ふと冷静になったAは、
久しぶりにちゃんと見る、二人の顔を見て、
不思議そうに首をかしげた。
すると、二人はニコッと笑う。
まるで、なにかいたずらを仕掛けた子供のように。
「待たせちゃって、ごめんなさいね。」
「A、もうこれからは、寂しい思いはしなくていいんだよ。」
それはそれは優しくAの頭を撫でた二人は、
心の底から嬉しそうにニコニコしている。
それを見て、Aは、なんだか。
その先が、聞きたくないような。
不思議な感覚に包まれた。
「引っ越しましょう。A。」
『え?』
そしてその言葉は告げられた。
いわく、
ずっとずっと前から準備をしていて、
ようやく引っ越せることになった。
仕事場に近いから、
Aとの時間も増える。
家族で出かかられる。
家族で、仲良く過ごせる。
「これからは、毎日一緒に、
ご飯を食べような。」
『ホントに....？
ほんとに、おとーさんたちとずっと一緒?』
それは、愛を欲する幼いAにとっては、
この年ごろの子供たちにとっては、
どんなお菓子よりも甘い甘い誘惑だった。
「えぇ。一緒よ。これからずっと。」
母親のその笑顔を、Aはキラキラした瞳で、
見つめていた。
その時、Aの頭にあったのは、
これからお父さん、お母さんと一緒に時を過ごせる
という幸福だけで。
Aはまだ、気が付いていなかった。
引っ越すということは。
この地を離れるということは
つまり_________
夏の終わりを告げる、蝉の声が遠く響く。
.
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作者名：雪兎 | 作成日時：2017年7月1日 20時
