じゅーよん ページ14
その日も、
焦凍はAと会えなかった。
一段と厳しさを増した、修行の中。
どうしても、脳裏に浮かんでしまう。
会いたいと、話したいと、思ってしまう。
だからこそ、焦凍の足は、
自然と、縁側へ向かった。
居るはずのない、影を探して。
昼間見る、庭とは違う、
暗闇に飲まれたような、怖い庭。
周りに明かりが一切ないため、
一層不気味に映って見える。
焦凍が怖くなり、その場を通り過ぎようとした時。
カサカサ
木々がこすれる音が響いた。
「!!」
きっと蛇か何かが出たんだ。
そう思っていても、体が硬直して、動けない。
ぬっと表した陰に危うく、声が出るところだった。
『良かった、しょーとくん、いた。』
そこにいたのは、まぎれもなく、
Aだった。
「ど、して。」
空にはもう、一面に星が散っている。
真っ暗で、月明かりしかないようなこの時間に。
なんで彼女が。
焦凍は訳が分からなくなる。
しかしAは、頬を膨らませながら、
あっけらかんと答えた。
『だって、しょーとくん、ずっと会えないし。
お昼に会えないなら、夜だったらいいかなって。』
めちゃくちゃな考え方だった。
けれど、早く家に帰らないと、家の人が心配するよ。
なんて、きれいな言葉は、焦凍からは出ない。
代わりに。
「うん、うん...。
いらっしゃい、Aちゃん。」
歓迎の言葉が出た。
本当は、今すぐにでも帰さないといけないのだと、
頭ではわかっている。しかし、
修行で疲れ切った体は、弱った心は、
思った以上に、Aを欲していたらしい。
二人そろって、縁側に腰掛ける。
空には満点の星。
どちらともなく、空を見上げて、息をつく。
『しゅぎょー、してたの?』
すっかりボロボロになった焦凍を見て、
Aはこわごわと言う。
『いたい?』
「...ううん。全然。」
Aと居る。
それだけで、焦凍の心は溶かされる。
自然に微笑みが漏れた。
『そっか。』
Aは手を地面にかざす。
ゆるゆると、何かの木が生え始める。
やがてそれは、真っ赤な、
リンゴを二つ、実らせた。
ぷつん。
Aが二つをもぎ取ると、
木は急速に枯れていく。
『じゃあ、ごほうび。がんばったね。』
リンゴの一つを手渡しながら、
Aは微笑んだ。
月明かりに照らされて、とても、美しかった。
「...ありがとう。」
焦凍はリンゴを口にする。
懐かしい、さわやかな甘みが、
焦凍の疲れを、ゆるゆると溶かしていった。
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作者名：雪兎 | 作成日時：2017年7月1日 20時
