L ページ32
「A、忘れた?」
「…?」
「…言ったじゃん。“蘭世のための前髪”って」
「うん。言った」
もしかして前髪伸ばしてるの、と蘭世に聞かれた時に、確かに俺はそう答えた。
蘭世は俺を穴があくくらいに見つめてくる。
そのいっそ睨むみたいな目に滲む、俺だけに向けられる欲が伝わって、ゾクゾクした。
「それなら、…それなら、他の奴に触らせんな。絶対。…絶対……」
「……はあ。蘭世はかわいいなあ、もう」
言いながら、その背に腕を回して引き寄せた。
案外簡単に俺の体の上に蘭世の体が重なる。
「えっ?はあ…?!」
「妬いたんでしょ。かわい〜」
頭を撫でてやるが、図星だからか蘭世は黙って何も言い返してこないし抵抗もしない。
すぐ側から、拗ねたような声がした。
「モテるんだから、気をつけろよ…」
「何が?」
「Aが!あの髪の長い子絶対Aに気があるっ」
「そうなの?」
「コイツ…」
腕の力を緩めると、蘭世は身体を起こした。
見えた顔は怒っているようで、でもどこか満更でもなさそうである。
うん。そうだよ。心配なんかしなくても、俺がこんなに気を許すのはお前だけだ。
「…危機感無さすぎ……。男相手でもこんなこと中々ないと思うぞ…」
「そうかな」
「そうそう。…俺だって今、俺の服着て俺のベッドで横になってるAが、本当に俺だけのものになったみたい、とか思ってる」
「……」
ちょっと驚いていると、蘭世は「引いた?」と自嘲気味に笑った。
「別に?」
俺はにっこりと笑って返す。
「だって俺、犬だし」
蘭世の手を掴んで、頬を擦り寄せ、「わん、わん」とか言ってみる。
ぐっと耐えるみたいな、少し顔を紅くして胸を刺されたみたいな顔をしている蘭世は面白い。
このままいけば手を出されてしまいそう、とは分かるけれど、いつまで我慢するつもりなんだろう。
「…ね、俺の髪、編んでよ」
囁くように言えば、蘭世の手がこちらに伸びてくる。
俺の髪を掬っていくその手に、いつもの感じがして安心した。
優しく触れて、絡めて、押さえつけて、逃がさないで。
そうやって編んで俺を縛って、俺を、お前だけのものにして。
この前髪は、蘭世が俺を縛るためにあるんだから。
「縛って、はなさないで」fin
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夜 - いつも素敵なお話ありがとうございます!リクエストなんですが、糸師冴さんで男主くんの話を書いて欲しいです。暗い話で冴さんがヤンデレな感じで。注文が多いですがよろしくお願いします! (8月6日 20時) (レス) id: 539b005b10 (このIDを非表示/違反報告)
りりあ(プロフ) - 加糖雪さん» 素敵なお話ありがとうございます!! (8月2日 12時) (レス) @page37 id: e7fc63ae3c (このIDを非表示/違反報告)
加糖雪(プロフ) - りりあさん» りりあ様こんにちは。リクエストいただいていた内容の作品を追加させていただきました!リクエストありがとうございました〜! (8月2日 8時) (レス) id: 7edce3b0d6 (このIDを非表示/違反報告)
加糖雪(プロフ) - 汰稀さん» なんと!素敵な夢をみていらっしゃる…!リクエストありがとうございます。お待たせしてしまうかもしれませんが承りましたのでしばらくお待ちください…! (7月30日 2時) (レス) id: 7edce3b0d6 (このIDを非表示/違反報告)
加糖雪(プロフ) - 汰稀さん» 返信遅くなってすみません!そうですね、束縛、独占欲の表現として三つ編みを用いていました(*˘︶˘*)ただ蘭世本人は無自覚かな?と思ったり思わなかったり…色々考えながら読んでいただけると嬉しいです^^ (7月30日 2時) (レス) id: 7edce3b0d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星藍 海 | 作成日時:2023年7月19日 3時