きっと息をやめるまで【RKRN】 (ページ29)

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｢Aちゃんは多分、あの時煙を吸って喉を軽く火傷してるんだ…｣

あの時…村が焼かれた時のことか。

｢…もう！学園長先生！けが人がいる医務室で煙玉使わないでください！｣

｢す、すまんのお…｣

伊作さんに怒られて、学園長さんは姿勢を低くした。

｢ヘム！｣
と、その学園長先生の足元に、犬がいることに気がつく。
(変な鳴き声…)
二足歩行で、頭には忍者と同じような緑の頭巾を被っている。犬でも忍者になれるのか？じゃあ忍者じゃなくて忍犬…？

｢学園長先生、どうしたんですか？｣
｢おほん！よくぞ聞いてくれた乱太郎。倒れた少女が目を覚ましたと聞いたのでな。お主、名は何という？｣

学園長さんの視線は私へと向けられる。

｢…Aです｣

｢Aか。元気そうでなによりじゃ｣
にっこりと笑う学園長さんに、私は会釈する。

｢…そういえば、Aさん、苗字はなんて言うんですか？｣

私の横で、伏木蔵くんが首を傾げた。
｢確かに！｣と乱太郎くんも声をあげる。

｢……苗字…｣

ここまで誰にも訊かれなかったから、もう話す必要はないのだとばかり思っていた。
そもそも、ここからは早々に離れるつもりでいたし。

しかし、真正面から訊かれてしまえば答えざるを得ない。

｢私の姓は、村が燃えた日に両親を亡くしたから、捨てた。…だから、無い｣

あっ、と伏木蔵くんの短い声が聞こえた。

そのまま、ごめんなさいの｢ご｣の形に口が開かれるのが見え、言わせてはいけない気がして｢気にしないで｣と微笑んだ。

私が姓を捨てたのは、柄じゃない格好つけなんかでは断じてない。

これは、覚悟だった。