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違う。
私は私の選択をして、もう覚悟を決めたのだ。
揺らぐな。
私は涙でぐちゃぐちゃになった顔面にお湯をかけ、そのまま両手で顔を覆った。
泣くのはおしまいだ。
私には救護所で目を覚ました時から、密かに決心していたことがある。
目が覚めて、両親がもう私の知り得るどの場所にもいないことはもう分かっていたし、自分にはもう何も残されていないことは考えなくても分かりきっていた。
自分はなんにも持っていなかった。
それ故に、どうすることもできなかった。
形容しがたい絶望が火の中を逃げて走っていた時から胸にずっとあって、これからどうしたいとも思わなかった。
だから、漠然と。
床に落とした皿が簡単に割れてしまうように、
山の川を流れた水が海へ流れ着くように、
日々季節が移ろいでゆくように、
自然と。
このままどこかで死んでしまおうと思った。
それなのに、やっと起き上がって見たこの身体は手当てされて生かされてしまっていた。
そして私は不思議なことに、
敵の城に憎しみを抱くでもなく、
奇襲を企てた誰かに怒りを覚えるでも、この村を焼き払った兵たちを恨むでもなく、
ふと思い立った。
最期にこの手当てを施した奴の顔を見てみよう、と。
せっかく助けてもらったのにこれから命を捨てるのは申し訳ないという命の恩人への謝罪と、
どうしようもなくなってしまった私のような人間をわざわざ生き延びさせるなんて馬鹿らしいという文句を含めて、お礼を言ってやろう。
動けるようになったらすぐにでもそいつのところへ行って、お礼を言う。
そしたら、そのあと誰もいない山奥で首でも吊ろう。
焼けずに残った着物が手元に戻ったから、それが使える。それでダメならどこかから縄でも盗んでしまえばいい。
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加糖雪(プロフ) - Hanakoさん» ありがとうございます!^^ (2021年4月25日 21時) (レス) id: ac64387404 (このIDを非表示/違反報告)
Hanako - 面白い!! (2021年4月17日 18時) (レス) id: 1d8bf8714f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年3月31日 9時