おばあちゃんと ページ32
息の詰まる喪服からラフな服に着替える。祖母の葬式の片付けも挨拶も済ませ、後は帰るだけだ。
すると、お母さんが声を掛けてきた。
「もっとゆっくりしてけば良いのに」
「明日までには帰りたいの」
「でも、もう電車無いんじゃないのかしら」
「最終が残ってる」
「そお？夜道に気を付けるのよ」
「はいはい」
「いつでも帰ってきていいから」
「分かったってば」
当たり障りのない返事を返しては引き戸を閉めた。
家から１５分歩いて駅に着く。
人肌の感じない駅にきれかける灯は心許ない。錆色のかかる水色のベンチに荷物を置き、その隣りに座る。
「はぁ......」
ふと手首の絆創膏が目に入った。
絆創膏をめくって爪をたてると、血が滲んでいく。手首を強く掻くとまた新しい傷が出来る。
「早く来ないかな」
他人事の様に血が滲み出す光景を眺める。
早くこんな静かな田舎から出ていきたい。
目まぐるしい位忙しくて何も考えれ無いところに帰りたい。それだけを考え目の前の人物に気付かなかった。
「なぁにやってんだ？」
いつの間に目の前にもんぺを着る子どもが立っていた。子どもが穿いているのは初めて見た。不運なことにこの駅に来たのだろう。
こんなところを子どもに見られてしまった。あまり良いものではない。
「誰にやられた？自分でやったのか？」
「子どもには関係ないわ」
「痛そうだな」
「どっか行って」
「痛くねぇのか、ここ」
傷付けた手首ではなく自分の心臓に親指を指した。
「......は？」
「痛てぇだろ」
「話かけないでくれる？」
「おらには分かる。痛いだろうよ」
そう言うとぽろぽろ泣き出した。
「我慢しねぇでいいだよ。どんだけ年を食おうが辛ぇことは泣きてぇもんだ」
怪我をしてない子どもが私の代わりに痛いと泣いている。他人の様に痛くなかった手がズキズキ痛み出した。
「子どもの癖にお婆ちゃんみたいね」
「ああ、おらのばあさまに教えて貰ったべ」
「良いお婆ちゃんね」
「んだぁ、おらもそんな婆ちゃんになりてぇ」
「.....なれるといいわね」
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