夜の昼寝 [on] (ページ5)

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「あ…ほら、紙でつかまないから」

愛用のスマートフォンの画面が、べたべたと汚れている。ドーナツを素手でつまんで、そのまま画面上に指をすべらせたのだろう。
蜂蜜と粉糖の、体温で溶けかけた甘いアイシングが早くも固まりはじめていた。

「あちゃ」
丸めたティッシュの先に飲んでいたアマレットを浸して、スリープした画面を拭いた。真っ黒い雫がこちらを捉えてぼんやり見上げている。

すると智は、眠気を含んだ声で「このティッシュ、杏仁豆腐の味かな…」なんて呟くのだった。

アマレットは智の好きなお酒だった。レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子のナントカという画家が、恋人のことを思って手作りしたリキュールがこれだったという。
イタリアのアーモンド菓子のアマロットに似ている香りは、杏の核とバニラビーンズが使われていることによるものだ。

カルーアや生クリーム、牛乳やハーブのスコッチを入れると、みだらな名前のカクテルができる……

丸めたティッシュを吸う姿は、いたいけながら最もセクシーで…
何度も至上の恋をしてしまう。悲しいときぐらいに、胸が疼く。
ロック特有の赤い琥珀色は、愛と太陽の色だと思う。

自分はきっと青い酒を見ても、太陽の色などと思うのだろうとめぐらせて、和也は新しい煙草に火を点けた。

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