夜の昼寝 [on] (ページ4)

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「あ、おかえりい」

物件を決める際、キッチンの広さには拘っただけに、智は料理が案外好きなのである。

オリーブオイルの瓶のような緑透のグラス…空きっ腹にアルコールを落とすのは良いことではないが、智にとってこれも機嫌の良くなる、好きなこと。

一口大のチキンの上に鮮やかなトマト缶を開け、マッシュルームやきのこと煮込んだものに、もうパセリを散らしているところだった。

「ただいま。ん、これ」

なあに、と言い終わらない内にドーナツを目にして、小さい笑い声が鼻に抜ける。

「へへ、ありがと、んまそう」
「おれにはこっちの方がうまそうだけどね」

空腹が鳴き声を上げてすぐ、「早くお皿持っていって～」と広いお皿を押し付けられた。

キッチンのすぐそこの四角いダイニングテーブルは、水彩絵の具の雫や、はみ出した濃いアクリル絵の具でヴィンテージのよう。
新品のはずの木目は、既に味を放っていた。

「かずは？ビール？」
「あ、うん」

和也にとっても、智にとっても、愛で成り立つこの部屋を居心地良く思っているのは、同じ。
それをお互いがきちんと気付くのは、まだ少し先の話。

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