夜の昼寝 [on] (ページ15)

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「寂しいだろ」

“世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし”
という歌が詠まれたくらいに、人々は淡く薄い花弁の一枚一枚に思いを馳せて生きてきた………

「ん？」
「埋めるなんて、死ぬときのことなんて、話さないでよ………」

桜も見えない一室で、桜の日本酒を傾ける。

彼が恋人との別れを悲しみ詠んだ歌に
“月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして”というものがある。

自分だけが昔に取り残されたままで、月や春は変わってしまったのだろうかと、月の傾く夜明けに泣きながら綴った、愛の、終わりの歌である………

ミニトマトだけ啄み俯いてしまった和也と、ばつの悪そうながらも和也の分のカナッペを作ってやる智。
和也の口にクラッカーを近付けると、文句も言わずに口を開いた。

前にも述べたような気がするが、彼らは子供のようなところがあるのだ。

机に伏せるようにすると、窓の外の水色に白い月が丸く浮かんでいるのが見えた。満月でもなく、糸のような三日月でもない、不完全な丸、麩のように密度の低い白である。

「何してんの」
「月がね………」

取り残したりしないから。いまのとこね。

そう胸の内で呟いた契りは、なんとも不確かで無責任ながら、智らしいとびきり優しい愛を含んでいた。

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