夜の昼寝 [on] (ページ13)

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桜味覚 1 ページ13

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智は、鼻まで浸かっているのが暑くなってきて、肩を出してお湯の匂いを嗅いだ。
鼻と水面がキスするくらい、顔をぐっと近付ける。

縁に投げ出されたままの、バスソルトの濡れた袋を裏返しても、知らないハーブの名前が並んでいるばかり。
ミントやユーカリ、ラベンダーの嗅ぎ分けはできないし、ワイルドタイムやシトロネラに関しては聞いたこともない。

和也は「くしゃみが出そうな匂い」だと言っていたが、智は気に入って肺いっぱいに蒸気を吸い込んだ。
ラベンダーは、果たして花じゃないのか？ハーブなのか？ハーブが、花？花ってなんだ？智にとっては、こんな疑問に支配されてめまいでもしてしまいそうである。

青いお湯が揺れて、膝が波紋で見え隠れするのをぼんやり見つめていると、やはり暑くなってきてバスタブから上がる。
シャワーからお湯が出るまでの間、冷たい水を少しだけ被るのが好きだ。体に悪そうなことは基本、好きなのだ。

湯船にいる時間が短くなると、春が来たんだなと感じる。なんせ和也が長く浸かり過ぎて、真っ赤に茹でられてふらふらと出てくるのも冬限定である。

さあ、もう、春だ。

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