夜の昼寝 [on] (ページ11)

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キッチンの向こうから、甘い、と不満げな声がする。

物理学者の名前のビールは青りんごの果汁が入っており、度数も低いと知りながら、智はやはり物足りなさを感じた。

ラペはにんじんを一本使うつもりだったが、和也は智の中指を思い出しながら作ったため心臓が震え上がり、ヘタ部分を大きく残してラップに包んだ。

薄い青色の小鉢に盛り付けると、ラペがよりまぶしく鮮烈に映る。

「あ…にんじんじゃん」
智はやはり、些か不満げな声でわざとらしくそれを覗き込む。
確かに細くしたにんじんに簡単なドレッシングを絡めただけの小鉢料理だが、手を滑らせないか冷や冷やしながら作ったゆえ、和也も文句を言われるとそれなりにむっとした。

「その青りんごのビール、あなたが買ったんでしょ？
甘い酒が嫌なら、なんで買ったんだよ」
「なんでいらいらしてんの」
「してない」

子供のような二人は、いただきますも言わずに食事をはじめる。
和也のグラスにも注がれており、一口含むと、確かにジュースのように軽く甘いビールだった。
「甘い」
やはり和也も不満げにそう呟いたら智が堪え切れなくなって、かずにはそれくらいが丁度いいだろ、なんて笑うのだった。

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