天竜の国 (ページ1)

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序章～天竜の厄災～ページ1

地鳴りがする。目を覆いたくなるような惨状が、この国のどこかしこで広がっている。視界を支配するは、赤、朱、紅。そこらに飛び散るものがどれなのかは一目瞭然で、それがいったいどちらのものなのかはあまり考えたくない話であった。

「人の子よ。我らに逆らうとは主らも落ちたのう」

ぽつりとこぼれた声はしゃがれた老人、それも男の声のようだ。しかし実際は“老人”なんて言葉では片付けられないほど歳を重ねた存在であり、そもそもそんな存在を自分たちが裏切ろうなど、貶めようなど、不可能な話なのに。

「申し訳ございません、天竜様。…無駄でした。私がいくら言っても、奴らは聞かなかった」

眼前のその大いなる竜に、その人は言い募る。人が竜を狩る、そんな時代で、竜に仕え、竜を守る神官だ。…のちの、守人とも言う存在。

「ですが、私はあなたに最期まで仕えます」

──それは、ヒトの犯した罪が厄災となり、
加護を失いつつある国を異常気象が襲うようになる、切欠。

「我が友よ…そなただけは決して、裏切りなさるな」

数日後か、あるいは一月以上経ってからか。天竜は人の世界から、地上から姿を消した。そしてこの竜に仕えた神官もまた、どこに行ったか、生き延びたのか死に絶えたのかすら残っていない。ただひとつだけわかっていることは、神官の志を継ぐ者が今も尚、天竜に祈りを捧げ続けているということだけ──