・ ページ30
*****
「【負】っていうのは死の間際の怨念だとか色々あるでしょ?怨念なら八雲が起きてれば『かけひき』使って頑張ってもらったんだけど今残念ながら気絶してるし。
なら、負の感情を抱いているものとか、陰陽に言わせれば穢れとかをぶつければいい。
んで、この近くに一番ありそうで一番楽なのが血液。オレの異能は血で出来た荊を操る。楽でしょ?異能使えばいいんだから。
でー、その点あのオレ達全員が通れそうな大きさにするならちょいと大変だから白秋に八雲を持ってもらったわけ。ここまでおけ?」
「おけだよ。ここまでおけだから早くしてよ」
「此処は言わば敵地ですよ…」
相棒後輩の両方から突っ込まれ、折角頑張って説明したのに、と雷に打たれる二葉亭は茶番も程々に顔を上げた。その顔は真顔である。
異能を使用するときに発生する黒の文章帯が二葉亭の身体を包み込んだ。そしてそれとほぼ同時に、二葉亭が異能名を呟いた。
「___異能力『浮雲』」
直後、派手な音を立てて血の荊が飛び出てきた。3人分の血の量とあってかその量はかなり多い。
地面から飛び出てきた血の荊が二葉亭の指の動きに従って歪の中に入って行く。ぎゅるるる、とワイヤーが巻き取られる時の音と似たような音が裏路地に響いた。
そしてどくん、どくん、と心臓の鼓動と同じような音を出して歪が大きくなって行く。二葉亭が血を全て歪に吸収させた頃には、歪は徳冨二人分くらいに大きくなっていた。
成功である。ふふん、と二葉亭が笑った。
「できたー!やっとできた!疲れた!枯れ木になる!」
「はいはい。じゃあ急いで行こッか。蘆花ちゃん、お先にどーぞ」
ではお言葉に甘えて、と言った徳冨が小泉を抱えたまま歪の奥に気配を消した。それを見た北原も歪の中に姿を消す。
全員を見送った二葉亭は、葬儀屋に一言二言言うと、自身もまた歪の中に入って行った。
そして、やがて歪がまた小さくなっていくのまで見た葬儀屋は、最初から気づいていましたと言わんばかりに屋根の上に視線を向ける。
『残念だったねえ執事くん。四人とも帰っちゃったよ?』
『結構ですよ。屋敷の中に紛れ込んだ鼠風情にしては体力があった方ですが…。まあ、坊ちゃんに害さえ無ければ私は何ら構いませんので』
にい、と笑った葬儀屋に営業スマイルで返したセバスチャン。
『おや、そういえば眼鏡をお返しするのを忘れておりました』
二葉亭の黒縁眼鏡は、執事の手に握り潰された。
*****
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雪寝 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tekitouni
作成日時:2023年10月3日 0時