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「消え、た」
「あ、グラサンと帽子も居ない！ どーしよろっちゃん！ 社長に怒られちゃうかなぁ！？」
呆然とする中島と怒られたくないと喚き出す小泉。同年代で何がどうしてこんなに違うのかと問い詰めたくなった徳冨だった。
小泉的には消えた四人の事も気になるのだろうが、徳冨としては矢張り二葉亭の安全が最優先。
そう思って後ろを振り返るものも、パワーの無い北原の代わりに探偵社が既に運んでいたので問題は無かった。きっと探偵社のベッドで輸血を施されるのだろう。
軍警や救急隊などが集まって来た為、後は全て顔の効く探偵社に任せて一旦此方は撤退となった。
提案したのは北原だ。
……またマスコミだの何だの騒がれるのは御免なのだろう。
「あ、ねーろっちゃん」
「ろっちゃん言うな。何だ小泉」
「何でろっちゃんが社長と夕飯の話してるの？ 今日食事会だっけ？」
あくまで疑問だった。しかし、徳冨はそれに苦笑とも取れる笑みをこぼすと。
「普通に夕飯だ。幼いころ、記憶喪失の私を引き取ってくれた鱒二さんの家に私は住んでるからな」
「……嘘ぉ！！？」
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「遅くなった。魚だが、焼き魚と刺身どれが良い」
「任せる」
「それが一番困るのだが」
鍋にしてやろうと決めた徳冨だった。選択肢に無い調理法を選ぶのはささやかな仕返しだ。
徳冨は手際よく食事を用意して、出来上がると縁側で読書をしていた井伏を呼び、挨拶以外は無言で料理を食べ勧めていると井伏が突然喋り出した。
珍しいこともあるものだと徳冨は相槌を打つ。
「お前とこの家に住んで、もう十年以上か」
「なんだ別れ話か鱒二さん」
「いや……待てなんでそうなる。ただ、お前も料理が出来るようになったのだなと」
失礼な、と徳冨は笑った。確かに、初めて料理を手伝った時に出来上がったのは黒炭で徳冨はなぜか身体中に切り傷を作るなど、それはもう大惨事。
それを掘り返すか、と思った徳冨だったが「良い
「全て、よく覚えているよ」
「お前の事だから記憶から抹消しているものだと思ったが」
井伏の言葉に徳冨の顔が緩む。そして、目を閉じて言った。
「見たことも、聞いたことも、嗅いだことも、感じたことも、食べたことも忘れんよ」
だって、それが私の異能力だから。
「この先ずっと、永遠に」
＿＿＿徳冨蘆花「思出の記」
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作者名：雪寝 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tekitouni
作成日時：2023年10月3日 0時
