【オリジナル】ただ在る事を求められる生き字引 (ページ8)

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チェシャ猫ページ8

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あくる日、アリスが動物のようなものを持ってきた。お絵描きを見せるような気軽さで、それをぽいっと生き字引に投げた。
動物のようなもの、である。動物ではない。動物であるはずがない。なぜならこの生き字引の世界は現在、生き字引とアリスしか存在していないはずなのだから。アリス以外の生命体が勝手に産声を上げたら、それは生き字引の世界が狂うことに直結する。それだけはありえないはずだった。

「……アリス、これはなぁに？」
《Alice made it!》
「うん、どうやって？」
《Alice gave birth!》
「は？」

生き字引は一瞬思考が止まった。生き字引の頭でも到底、処理しきれないものはある。自分でも呆れるほど長い時間を掛けてアリスの言葉を噛み砕いて飲み込んで、ようやく理解した頃にはもう、アリスは飽きたのか床でゴロゴロしていた。腕の中で動物もどきはにゃあと鳴く。生き字引はアリスの首根っこを掴んで説明を要求した。

___＿＿要するに。アリス曰く、最近勉強した魔術で自分の肉体を雄にも雌にも改造できるようになり、ならば腑はどうなったのか気になったらしい。そして頑張って勉強して最近ようやっと人口精子を作り上げ、ついさっき出産したそうな。
しかし人間とほぼ一緒といえどやはりホムンクルス、生まれてきたのは人間の子でもホムンクルスの子でもなく、猫のようなものだった。それが予想外でびっくりしたからお披露目ついでに報告と。

生き字引は眩暈がした。主にアリスのお馬鹿っぷりに眩暈がした。

まず最初の時点で相談しろ。なんでそこで「孕めばいい！」という結論になるんだ。一回も腹が張っているところを見たことがないがどうしたんだ。なんで一言も相談しなかったんだアリスぅぅうう。

《And now Alice can talk a little bit.》
「は？」

頭痛が痛いどころの話ではない。かれこれアリスが生まれてそろそろ一世紀になる頃だろう、でもそんな素振りは一度も見せていなかったのだ。

「まー……ぁ、ま！」

しかもこれである。ママってなんだママって。せめてパパにしろ。
すっかり置いてけぼりになっている仔猫は、アリスの希望でそのまま生かされることとなった。生き字引はどうでもいいと思っていたが、乳は出ないのかと一時間アリスは奮闘していたので愛情はちゃんとあるし、アリスに万が一があっても大人しい猫だけなら生き字引で面倒がみれる。

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