十輪 ページ10
「まーしぃずるい！俺もお風呂行きたかった！」
坂田がばんばんと卓を叩くのを食事が揺れる、と落ち着かせた。
「悪い悪い。客の要望でな。」
まーしぃは客の要望、というが花魁とは基本舗の中のみでしか関われないのだ。
舗には客の利用出来る風呂はないから、舗の外、遊郭にある湯屋に行く必要がある。
外で花魁と、となると舗よりもぐんと値が張るし、花魁の身を案じて余程の上客相手じゃないと出来ない。
まぁ男の客ならこんなこともないのだろうが、女性ならではの好きな男とデートしたい、という心理からだろう。
そこで髪結い道具を片付けたセンラマンがまーしぃの横に座り話に加わった。
「相手は何方です？」
「木下さん」
それを聞いて坂田が「俺、あの人苦手」と分かりやすく顔を歪めた。
木下さんというのは50代頃の女性で、まーしぃの馴染みの客の一人だ。
彼女は女性ながらやり手の商売人で、なんでも南蛮人に対しての商売をしているとか。
そのため稼ぎも多く、舗にも気前よく大金を落としてくれるのだが、彼女は少し特殊な性癖を持っていてそこら辺が中々厄介な客だ。
とは言っても俺達花魁が客を選り好みできる立場では無い。そうなのだが……
最初彼女は俺達を順繰りと指名したが、俺や坂田、センラは付き合いきれず、結局そういう方への対応が上手いまーしぃの所に落ち着いたのだ。
「木下さんということは、お風呂へもそういう目的で？」
「まぁ、な。」
含みのある答え方をしたまーしぃに坂田がはしゃいで言った。
「やだ〜、えっち〜！」
「真昼間からやめとけ。」と、俺は止めつつも彼らと談笑を楽しんだ。
俺らは全員ここ、中原遊郭に売られて5年以上経つ。
遊女ではなく、遊男、そんな物珍しいものは当初は男性客ばかりの遊郭では中々受け入れられなかった。
稼ぎがないと生きていけない。
俺達はそれぞれ楽器やお茶、書道、古典、そして“女性のよろこばせ方“を血のにじむような思いで覚え、今では中原遊郭四名郎と呼ばれる程まで成長した。
少女から老女まで、時には男性も。
どんな客であっても、不平不満を漏らさず、相手をする。
そんな代わり映えのない毎日に、彼らだけが心の拠り所だ。
俺達はみんな同じ想いで、年季が明けても共に生きていくことを約束している。
それでも、こんな日々に何処か満足のいっていない自分がいる。
____お主さん達なら中原の天下を取りなんす。
(……天下をとっても、全然満たされないよ、夕霧姐さん。)
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます！そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (
レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます！嬉しいです、続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます！更新頑張ります！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます！更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます！続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藍瑠 | 作成日時：2020年3月16日 20時
