十二輪 ページ12
だから見世を見ているだけの所謂“冷やかし“や下級の遊男で妥協する客など、見物客に対して実際俺達を買っていく客は少ないのが現実だ。
しかし俺達はその分華族の令嬢や貴婦人、藩主、将軍家の姫君、或いは女長者など、太客を掴み舗の経営を潤している。お陰で舞波楼は新しくは無いが大見世と成長した。
❉ ❉ ❉
(今日は誰か来るんだっけ、)
頭の中で予定や客との約束を思い返すが、今日は特に何も無かった筈だ。
予定になく突発的に太客が来ることもあるが、見世が始まって暫くはそれも無いだろう。
他の3人は、と横の様子を伺うと馴染みの令嬢達が来たようで彼女たちと話をしていた。
3人はそれぞれ令嬢達が今夜は買うだろう。
じゃあ俺は新規でも掴まえるか、そう思い煙管を咥え、格子の向こうに投げやりに目をやった。
すると真正面にいた少女とかち、と目が合った。
(なんだ……？)
薄く茶色がかった瞳に、顔辺りの長さに切られた夜空のような黒髪。
洋装からみるに何処か良家の令嬢であることは間違いないだろう。
今まで見てきた令嬢達と比べ地味な風貌だが、目鼻立ちがくっきりと整っており、彼女は“美少女“という枠に十分入るのではないか。
しかし彼女に抱いたのはそれよりも既視感だった。
俺の客でも無いし、他の3人や遊男達の客でも無いだろう。
遊郭を練り歩いているような様子もない。
(間違いなく今日初めて会った相手なのに、この懐かしさはなんだ…？)
「浦田さん…？！」
まーしぃの驚いたような声にはっ、と我に返り横を向くと、目を丸くした3人が俺を見ていた。
3人にどうした、と表情で示せば坂田が「煙管…」と呟いた。
(煙管…？)
自分の手元を見るとさっきまで吸っていたはずの煙管が無くなっていた。
「え、俺煙管何処やった…？」
(ぼやにでもなったらいけない、)
そう焦って身の回りを探していると、センラマンに「うらたんがあの女の子に渡したんやないですか…！」と心配そうに言われた。
「え…」
そう言われて例の彼女を見ると、手元には確かに俺の煙管が。
「うらさんあの子好みやったん？」
「珍しいこともあるもんやなぁ」
「明日はたぬきでも降りますかねぇ」
3人は心底驚いたように口々に言っているが、1番驚いているのは俺自身だ。
俺は今までただの一度も客に煙管を渡したことは無い。
理由は単純に今まで自分が取りたいと思った客がいなかったからだ。
指名されれば断ることも無く、どんな客であれ淡々と応じ、受け入れる。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます！そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (
レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます！嬉しいです、続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます！更新頑張ります！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます！更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます！続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藍瑠 | 作成日時：2020年3月16日 20時
