十一輪 ページ11
暮れ六つ(午後六時頃)
舗に大行灯が灯り、新造達が三味線を弾くのを合図に舞波楼も夜見世を始めた。
俺達4人は舗の看板花魁ということで、張見世の正面に上座から俺、まーしぃ、坂田、センラの順で畳に座った。他の見世なら花魁の位を持つ遊女は張見世に出なくて良いのだが、舞波楼では俺達が揃って並ぶのが名物となっている。
夜見世を待っていた女性達の色めき立つ声に微笑むと、その声は更に大きくなった。
その声に紛れて夜の雰囲気に似合わない「あれ？あれ？」と抜けた声が右から聞こえてきた。
案の定坂田が「俺の簪知らん？」と自分の周りを探しながら、両隣のまーしぃとセンラに聞いていた。
その様子に向こう側の客達には聞こえないよう、「坂田。」と、廓詞を使わない坂田を咎めた。
ここ遊郭では“一夜限りの恋人“、その言葉通り、遊女も遊男も客達に疑似恋愛を提供している。そんな疑似恋愛の場では、客達は恋人に“特別な人“であって欲しいという願望が強いため、遊女、遊男は舗に売られた時、揃って廓詞を覚え、自分達の出自が客に分からないようにするのだ。
「だって俺…わっちの簪が」
言葉遣いを変えぬまま言い訳を始めた坂田に俺が顔を顰めたのを見て、坂田は言い改め俯き黙った。
はぁ、と溜め息をつくと、俺は自分の髪に刺さっている簪を抜き坂田に渡した。
忽ち坂田は「ありがとううらさん！」と顔を輝かせ、自分の髪に刺した。
坂田はこうやって抜けている部分があるが、逆にこの抜けているところや人懐っこい性格が女性達に人気だ。
そんな坂田の性格には咎めることもあるが、このくすんだ生活の中で何度も助けられた。
物思いにふけっている間にも時間は過ぎていたようで、本格的に舗が客を取り始めることを告げるお囃子が豪勢に鳴り響いた。
それを合図に俺達は見世の見物客を前にゆっくりと畳に両の手をつき、頭を下げた。数秒して頭を上げ、俺達はにこりと微笑んでみせた。
「ようこそ おいでくんなまし」
俺達4人の声が重なり、今宵も中原は人々を妖艶な世界へと誘う。
❉ ❉ ❉
毎回見世の前にくる見物客は、男女年齢問わず様々で、正面左右の舗の前にまで及ぶほどの人数だ。
けれど花魁の中でも最高位、呼出し昼三である俺達の一晩の揚代は一両一分(約10万円)もかかり、普通の客では払えない。
それに加え、花魁と床を共にするには、初会、裏を経て馴染みという関係にならなくてはならない。そこまで通い詰める余裕がある人間は少ないのだ。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます！そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (
レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます！嬉しいです、続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます！更新頑張ります！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます！更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます！続編もよろしくお願いします！ (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藍瑠 | 作成日時：2020年3月16日 20時
