八輪 ページ8
「あの、違うのこれはね!」
私は彼女たちに必死に弁解しようとしたが、内儀に「ささ、お嬢こちらへ。」と手を引かれ2階に通されてしまった。
連れていかれる途中ちら、と振り返ってみた3人の表情は、決して良い物では無かった。
内儀に通されたのはこじんまりとした、けれど部屋の隅々まで掃除が行き届いた翠を基調とした家具の並ぶ綺麗な部屋。
最初、内儀には舗で1番広いという部屋に連れて行かれたのだがたった一人、私のためだけにそんな大広間を使われると気が滅入る、と全力の説得でこの部屋に替えてもらった。
しかし内儀が用意したのは部屋だけでなく、数々の料理、そして何人もの遊男、それら全てをやっとの思いで断って、花魁一人をつかせるという、内儀の渋々の条件で落ち着いたのだ。
…というかこの部屋。
部屋の灯りは、2つの行灯(あんどん)のみで薄暗い。
そして先程ちら、と確認したが、屏風で仕切られた向こう側にあるのは布団が2つ。
完全にワンナイトな雰囲気____
私は顔がぼっと赤くなるのを感じた。
(ま、まずいまずい……)
生まれてこの方17年、何を捨てても守り抜いてきた純潔が今危険に晒されている…!
恋人は愚か想い人も出来なかった私だし、誰にも狙われなかったからなんて悲しいことは考えないでおく。
(どうする…内儀が出ていって10分程、早くしないと花魁が来てしまう…!)
私は慣れない場所に正座したまま、部屋中をぐるっと見渡した。
(もう逃げるしかない…!)
そもそも私は不本意でここにいる訳だし、花魁とはまだ何もしていない。
多少のお咎めはあっても代金未払いで折檻、なんてことは無いだろう。
うんうんとありったけの言葉を並べて自分を納得させ、私のために用意をしている花魁や若い衆への罪悪感を抑える。
私は部屋の唯一の出口である襖をゆっくりと開き、部屋からそろ〜、と顔を出した。
(よかった、外には誰もいないようだ。)
私は安堵してふぅ、と肩を撫で下ろした。
普通なら見張りに番頭や禿がいるのだが、辺りには見当たらない。
まぁ、見張りがいない理由などどうでもいい。
一刻も早くここから抜け出そう、そう踏ん切り、私は部屋の中にもう一度入ると、部屋を少しばかり整え、持っていた紙に帰る旨と自分の名を書いた。
その紙の上に浦田花魁から貰った煙管を置いて。
「よし。」
私はそう小さく呟き、頬を両手でぱちと叩いて気合いを入れる。
そして私は外をさっさ、と見渡しよく確認してから廊下にでた。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時