二十八輪 ページ28
でもそう笑った浦田さんの瞳は何処か寂しげに見えた。
「……辛い、ですか?」
私がそう言って浦田さんが目を見開いたのがわかった。
は、と我にかえり、またやってしまった、と思う。
彼らが辛くないわけがない。それなのに辛いか聞くなんて。なんてデリカシーのない発言だろう。
なんてことを言ってしまったんだ、と口をついて出た言葉を悔やむ。
「!…ごめんなさ」
堪らず私が謝ろうとするも、その言葉は浦田さんに遮られた。
「…
「俺たちは商品で、客に買って貰わなくちゃ生きていけない。だからどんな客でも拒めない。男の分、月のものも、孕む心配もないから休む間もなく客の相手をする。」
「っ……!」
自嘲的に笑いながらそう話す浦田さんに私はただただ黙るしか無かった。
「借金を返し終わったら、年季があけたら、なんて言うけど、着物や簪代、弟男郎や禿たちの面倒も見ていたら、借金は減るどころか雪だるま式に増えてく。」
「こういう仕事をしていると病気は付き物だし、
「遊男を辞めたら、なんて将来のことを考えることもあるけど、心の中では半分諦めてるしな。ほら、売れっ妓の俺がいなくなったら舗も困るだろ?」
「…本当は行く宛なんて無くなってしまったからなんだけど。」
へへ、と笑った浦田さんに、胸を何度も鋭利なもので刺されたような切なさに襲われた。
「!A…?!」
気付いたら私は浦田さんを抱き締めていた。
浦田さんはそんな私に驚いたような声を上げるも、「なあに、さっきはあんなに照れてたじゃん。」なんてすぐに軽口を叩いた。
それでも私が浦田さんを離さず、より強く抱きしめた腕に力を込めた。
「……可哀想?」
「まぁ自分じゃあなんにもできないしね。応じるまま、受け入れるままでさ。弱っちいよね。」
笑っているようにきこえて、でも悲痛さを感じさせるそんな声色。
「……くないです…。」
「え?」
遊郭という自由無き檻に囚われて、計り知れない痛みを抱えて、でも自分とその意地と誇りを見失わず、まっすぐに生きている。
「浦田さんは、強いですよ…。」
「! …ふふ、ありがとう。」
✻✻✻
江戸の町は今日も深く、夜の帳かけて行く____
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時