十六輪 ページ16
『 花魁様
誠に身勝手なことだと存じ上げますが、今日はお暇させて頂きます。本当にごめんなさい。舗の皆さんにもどうぞよろしくお願いします。この侘びはいつの日か必ず。
吉高 A 』
「はァ?」
そこに書かれていた文章に俺は顔を歪ませた。
流石良家の令嬢といったところか、達筆な字と丁寧な文章だ。
しかし何だこの文は。
しかもこの煙管。
まるで返すと言わんばかりに置き去りにされている。
これはまるで___
「…くっ、ふははははは!」
俺は堪らず笑い出してしまった。
暫く笑ったあと、目尻に滲んだ涙を拭う。
すー、はーと深く息を吸い吐いて、笑ったせいで荒ぶった呼吸を整えた。
「俺、振られたのか。」
薄暗い部屋に言葉とは対照的に楽しそうな俺の独り言が、誰に拾われることも無く落ちた。
❉ ❉ ❉
side you
(どんだけ広いんだこの舗ーーー!!!!!!)
私は心の中で思いっきり叫んだ。
部屋を抜け出してから早10分。だだっ広い廊下を歩き続けているが、一向に1階へ続く階段も出口も見つからない。
最初こそ誰かに見つかってはいけないと、身を隠しながら進んでいたものの、もう10分以上誰にもあっていないことから大丈夫だろうと高を括り、今は廊下の中央を堂々と歩いてしまっている。
物語ならこうやって油断した時に見つかって捕まる、というフラグなのだろうが、10分以上も身を潜めながら進んでいたら疲労で誰でもそうするのではないだろうか。
そもそも今日来たばかりの舗の造りや道など分かるはずもない。抜け出して帰ろうなどと浅はかな考えだったのだ。
そう、つい10分前の自分を呪う。
こんなことになるのなら、花魁に頼んで帰らせてもらった方が素直で余程マシだったと思う。
何も事情を知らない人が、今の私を見れば泥棒か何かだと思うのではないか。
完全に怪しい人物だ。
廊下の壁にもたれ、はぁ、とため息を着いた。
すると不意にどこからか女性の声が聞こえた。
(誰かいるのかな?)
私はその声を探そうと壁から離れ、きょろきょろと左右を見た。
女性ということはお客さんかな?あーでも、従業員さんの可能性もあるか、さっきの内儀さんも女性だったし。
いや、もうこの際そんなことはどっちでもいい。これ以上同じような景色の続く廊下を歩き続けることは避けたい。あの声の主に道をきいてさっさと帰ろう。
私はこれ幸いと微かに聞こえる女性の声を頼りに廊下を進む。
しかし近くにいるのが同性である女性のようで良かった。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時