弐佰捌) 理由 ページ21
松本｢君はここにいることで、あの薬に関わってしまったようだね｣
松本｢それに、君も｣
松本先生はそう言って千鶴から私に視線を移した
A｢はい｣
A｢自己紹介が遅れて申し訳ありません。私は、礼龍寺Aといいます｣
A｢...薬の件は、伝があるのでその薬が変若水であり、西洋から渡来したものであることも知っています｣
A｢そして、変若水を飲んだらどうなるのかも｣
A｢千鶴も薬については山南さんや土方さんから聞いています｣
松本｢そうか｣
松本｢では、綱道さんが幕府からの命を受けてあの薬の開発をしていたことは知っているね??｣
A/千鶴｢はい｣
松本｢あの薬で生み出される羅刹は、鬼神の如き力と驚異的な治癒能力を持つ人間のことだ｣
雪村｢驚異的な...治癒能力...｣
松本｢そして、礼龍寺くんが先程言っていたようにあの薬は変若水と言って西洋から渡来した物だ｣
松本｢西洋ではエリクサー、中国では仙丹と呼ばれている｣
A｢そんなにこの薬は使われているんですね...｣
雪村｢変若水を飲むと...腕力がとても強くなって、傷の治りも凄く早くなる...でも同時に自分を失ってしまう程の苦しみが伴う...｣
A｢千鶴...｣
きっと今、
千鶴はあの日に見た羅刹、そして治癒能力
山南さんが羅刹になった日を思い出しているのだろう
そして、
体験しなければ分からない内容を口にする千鶴に
松本先生は驚いた後 眉を寄せた
松本｢君はそこまで知ってしまったんだね｣
雪村｢どうして、父様はそんな研究を...｣
千鶴は膝の上で袴をクシャっと握り
悲しさと憤りを隠しきれないでいた
私も千鶴の立場だったら同じような感情を抱いていただろう
幕府の命と言っても、人の命が関わることだ
その人の未来を一瞬で奪いかねない残酷な研究を
どうして続けていたのかと
私は自分の手を千鶴の手の上に優しく乗せた
千鶴は何も言わなかったが、拳を握る力は少し緩くなる
そして、
拳を解いて私の手を握ると
顔を上げ、再び松本先生を見た
その様子を見た松本先生は軽く頷き口を開いた
松本｢綱道さんの考えに関わらず、幕府の命を受けざるおえなかったのだろう｣
松本｢その受けざるおえない理由は、私にも分かりかねるが...｣
松本｢しかし結局、綱道さんはここを去った｣
その理由に"雪村家"が関係していたら...
そう思ったとき、私の背中に冷たいものが走った気がした
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作者名：雪姫華-yukika- | 作成日時：2024年3月17日 19時
