捌拾肆) 買い手 ページ18
A「お、多い...」
着物の多さに驚愕したAを他所に、
店主はそそくさと部屋の奥へ向かう
店主「早くこちらへ」
にこやかに手招きする店主に言われるがまま
膨大な量の着物の元に足を運ぶ
A「この中から決めるとなると日が暮れてしまいそうですね」
A「おすすめありますか??」
店主「実はね...」
店主「前にいらした時に、貴女にぴったりだと思った着物があるの」
そう言って、店主は一番奥にかかっている着物を手に取った
A「わぁ!!」
店主から渡させた着物に思わず声をあげたA
それは光の当たり方によって黒や藍に見える布地に
金の糸で月下美人が施されているものだった
A「綺麗...」
店主「これはね、私のお気に入りなの」
店主「檳榔子黒という色でね、藍色で下染めされた布なのよ」
店主「この着物を望む人は多かったのだけれど、私はこの着物を着こなすことができる買い手が現れるまでは売らないと決めていたのよ」
A「ということは...」
店主はAにニッコリと笑うと手を取り言った
店主「貴女にこの子を買っていただけたら嬉しいわ」
店主「長い間買い手が見つからなかったから...」
店主「私のせいなんだけれどね」
恥ずかしそうに微笑んだ店主は本当に嬉しそうだ
きっとこの着物の買い手が見つかることを
ずっと心待ちにしていたのだろう
店主「女性物にはなってしまうし、刺繍も入ってしまうけれど」
A「私は...」
暗い色の中に上品さや繊細さ、儚さを持ち合わせたこの着物は
唯一無二の着物であると言っても過言ではない程の
異彩を放っていた
"月下美人"はAとって特別な花だ
新月や満月の夜だけ花を咲かせる
それは月ノ宮であるAの持つ力と似ていた
A「これにします」
店主「そう言って頂けると嬉しいわ」
店主「今日も着て行かれるかしら??」
A「はい」
Aは嬉しそうに着物を胸に抱きしめ、大きく頷いた
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店主「帯はおまけよ」ニコッ
着物を着替えるAの元に店主が帯を持ってきた
着物の柄と合わせてくれたのか帯は金色であった
A「いいんですか..??」
店主「いいのよ」
店主「今日は私にとっても嬉しい日だから」
A「ありがとうございます」
A(本当に暖かい人だ)
Aは店主に感謝を伝えて帯を受け取ると丁寧に帯を結んだ
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作者名:雪姫華-yukika- | 作成日時:2024年2月21日 13時