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目の前で叫ぶ母親の言葉も、私の頬をハンカチで押さえながら心配そうな顔をする巳波の声も、うまく頭に入ってこない。
ようやく意識が覚醒した時、真っ先に目に入ったのは床に散らばったスケッチブックたちだった。
「9年間も親元を離れてほっつき歩いて何をしていたかと思えば……!
まだ絵なんか描いていたの、あなたにそんな才能ないって言ったでしょう!?苦しい思いしてほしくないから忠告したのにどうして言うことを聞けないの!!」
『……』
「あなたはいっつもそう!私のことが嫌いなんでしょう、それならそれでもいいわよ…っ
でも巳波の邪魔だけはしないで、巳波と暮らすくらいなら実家に帰ってきなさい!!どうせどこに行ったって迷惑かけるんだから…!」
怒号をひたすら浴びせられ、ぼーっとしたまましゃがんでスケッチブックを拾う。
弾みで挟まっていた紙が1枚床に落ち、拾おうとする前に母に奪われた。
巳「っ、ちょっと…!」
『……ぁ、』
ぐしゃっと音を立てて、紙が歪む。
巳波の絵だった。
「文句があるなら私の話を聞きなさい!」
『……』
ショック、もまあ勿論あるんだけど。
モンペだなぁ、毒親だなぁ、なんて、他人事のようにぼんやり考えながら無表情で母を見つめていた。
『…あのさ。
私がフランスで何してたかとか、あなたが嫌いであなたに逆らってるんだとかそういうのはどう思われても構わないんだけど、』
この冷静さに任せて、気になってきたことを聞いてしまおうと思った。
思ってしまった。
『2人で一緒に暮らせって、巳波に私の世話を任せたのはそっちでしょ?』
話が違う、と呟けば、母はわけがわからないという顔をして。
「私は最初から反対だったわよ!お父さんが勝手に巳波に教えたりするから…!」
『………えっ?』
巳「…、」
反射的に巳波の方を向けば、ピクリと僅かに眉が動いた。
……ちょっと待って、それってもしかして、
『…嘘ついたの?』
巳「……A、」
『私、元々巳波に面倒見てもらう予定じゃなかったってこと…?』
ダメだ、頭が混乱してて何も理解できない。
ただ目の前の巳波が悲しそうな顔をしていて、それはダメだって脳が警告を出しているけれど。
『は…、なにそれ…それじゃ私、さいしょから、…ぁまって、ごめん違う……ちがう巳波は…悪くなくて、……』
どうして。
久しぶりに、涙腺が言うことを聞かないんだ。
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なつめみく - わあああ凄いです!ミナミチャァン大好きなんで助かります、!!にしても文かくの上手すぎてめちゃめちゃ読みいってた、!! (9月30日 22時) (レス) @page46 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 完結おめでとうございます できればですがユキくんの妹の特権を書いて欲しいです お体に気をつけてくださいね (8月3日 1時) (レス) @page46 id: 8a945fb4c9 (このIDを非表示/違反報告)
koguma62(プロフ) - 完結おめでとうございます!巳波の続編読みたいです!最近熱中症で倒れる方多いので天野さんも体調に気を付けてくださいね(* ᴗ͈ˬᴗ͈)” (8月3日 0時) (レス) @page47 id: eb36b314f5 (このIDを非表示/違反報告)
ななは(プロフ) - 完結おめでとうございます!!毎日にやけながら読んでました。作者の部屋を見たのですが、陸くんの小説が見たすぎます...天野さんの物語の雰囲気というか語彙とかお話の進め方がすごく好みなので..とっっても書いて欲しいです...これからも応援してます!! (8月2日 19時) (レス) @page46 id: 8319d77ff3 (このIDを非表示/違反報告)
富田菫(プロフ) - 今回の話も最高でした!続編ぜひ見たいです(*^^*) (8月2日 8時) (レス) id: cd0b8d30c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天野いろは | 作成日時:2023年6月21日 13時