66話 あの時の風景 ページ17
風の音がずっと耳に響いていた。
少しずつ風の音は小さくなっていく。
やがて自分の呼吸だけが聞こえ始める。
閉じていた目を開けると白だけだった世界に色が戻っていた。
木々の枝が見える。
「……吹雪……止んだ?」
体に力が入らず横になったままの雅紀。
なんとか横向きから仰向けに体制を変える。
「あ……雪……」
空からゆっくり降りてくる雪。
鳥の羽のように軽く踊りながら舞い降りる。
肩に駆けていたバッグの紐に手を触れるとカバンの位置を探る。
蓋を開けて中からカメラを取り出した。
カバーを外して雪に標点を合わせる。
手袋でシャッターが押せない。
歯で手袋を噛んで引っ張りぬぐ。左右とも。
シャッターを何度も押す。
「キレイだな……」
切なく寂しくなる気持ち。
「前にもこんな気持ちになったな……」
庭先で雪を見上げ泣いたあの時と同じ気持ち。
「寂しい……なんでかな……」
涙が頬を伝う。
ふと思いだ出したのは幼き記憶。
「そっか…俺この風景を見た事あったんだ」
孤児院に連れてこられたあの夜。
門の前に一人置いていかれた。
『いいわね、自分の事を何も話しては駄目よ。みんなが幸せになる為なんだからね?』
一人残された闇の中に膝を抱え座る。
寒くて苦しくて座ってもいられなくて横たえた冷たいアスファルト。
見上げた黒い空から白い雪が落ちてくる。
温かそうで手を伸ばし触れる雪。
冷たい、それが悲しい。
髪に服に落ちてくる雪をずっと見上げていた。
「……あの時と似ているんだ」
上着のポケットから携帯の呼び出し音が聞こえてくる。
胸の上にカメラを置いて携帯を取り出す。手袋を脱いだ手は赤く冷たくなってうまく動かない。
触れた画面は『和ちゃん』が通話中と表示する。
『まー兄！やっと繋がった、無事なの!!』
「……和……ちゃん」
『どこにいる？どうして携帯出なかった？何度もかけてたのに』
愛しい家族の声に悲しい気持ちが消えていく。
『まー兄？大丈夫？今ね、さー兄としょー兄が向かっているから！』
『カズ代われ。雅兄聞こえるか？』
「じゅ……ちゃん……」
大好きな弟たちの声。
『今どこにいる？』
もう大丈夫だ。
寂しい気持ちも恐怖も寒さすらない。
安心した心。
空から絶え間なく落ちてくる雪を見つめる。
「……雪がキレ…イだよ……」
携帯を持っていた手が力なく落ちる。
雅紀の目がゆっくりと閉じた。
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むつき(プロフ) - トコトコさん» 更新が中々出来ていないのに嬉しいコメントに涙が出そうです。ありがとうございます。 (2020年1月11日 22時) (
レス) id: b2ef71cdde (このIDを非表示/違反報告)
トコトコ - HOME大好きです何度も読み返して同じ所で感動して涙が出てきます。もうすぐ!終わってしまうのが淋しいです (2020年1月11日 15時) (レス) id: 1dd726fb60 (このIDを非表示/違反報告)
むつき(プロフ) - 雅さん» 読んで頂いて嬉しんです。ありがとうございます。 (2014年11月29日 19時) (レス) id: 4345b608cc (このIDを非表示/違反報告)
雅 - お話おもしろかったです (2014年11月29日 19時) (レス) id: b8b9771043 (このIDを非表示/違反報告)
むつき(プロフ) - 和雅さん» コメントありがとうございます！名前が変わっていたのは意図ではありません。むつきの頭のネジが緩んでいるせいなのです。慌てて直しました。ありがとう。全く気が付かず、一人照れ笑いしてました。もし何か変なところがあったら教えてください！ (2013年3月19日 12時) (レス) id: badd9dfabe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：むつき
| 作成日時：2013年1月25日 22時
