17. ページ17
幸せになってほしい、と言う
亡くなったお兄さんと、Aさんに育てられてきたという暁は、本当に寂しかったんだろう。満足に甘えることも出来ず、苦しい生活を送ってきたということが会話から滲み出てわかった。
だけど、コイツは小学生とは思えないほどしっかりしている。帰りが遅いAさんのために、家のことはほとんど暁がひとりでこなしているらしい。
「オレ、貧乏でも不幸だって思ったこと、一度もないんだよ。姉ちゃんと兄ちゃんがいるから」
親父のことは嫌いだけどな、と言って暁は年相応の子どもらしい笑顔を浮かべていた。オレはそれまで聞き手に回っていたが、ようやく口を開いた。
「お前は強ぇやつだな」
オレも同じ団地だから帰りがてら話そうぜ、とベンチから腰を上げて立ち上がる。うん、と返事をして、暁も同じようにして立ち上がった。
団地までの数分の距離を、ゆっくりとした足取りで歩いていく。いつの間にか話し込んでいたようで、だいぶ日が傾いていた。眩しい橙色の光が、オレたちの影を伸ばしている。
「さっきの奴らにやり返してぇなら、オレが良いこと教えてやるよ」
ニッと笑いながら話しかけると、キラキラとした瞳をこちらに向けてきた。純粋な子どもは、どこからともなく愛着が湧くものだ。背の高さに合わせて屈み込み、そっと耳打ちをしてやる。
「おお…！！それ乗った！」
千冬兄ちゃん最高だな！と言って暁は満面の笑みを浮かべていた。それにつられてオレも笑った。あんなのに負けんなよ、と返しながら。
いつかのように、暁を家に招いて手当てをした。泥を落とし、かすり傷に消毒をして、擦りむけたところには絆創膏を貼ってやる。
「千冬兄ちゃん、今からウチにおいでよ！」
突然の提案に、えっ！？と驚いた。思いがけない出来事だ。Aさんの家に、今から邪魔しに行くということか。動揺し始めるオレを見て、嫌だった？と聞く暁に急いで首を横に振った。行きたくないわけがないだろう。
階段を上がって3階に着くと、暁はランドセルから鍵を取り出してドアに差し込んだ。
「あれ？鍵が開いてる」
ドアを開けると、玄関には見慣れたスニーカーがあった。珍しくAさんが先に帰っていたようだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「東京リベンジャーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ベリーショート(プロフ) - seayouさん» 素敵なコメントをくださりありがとうございます！この作品は絶対完結まで持っていこうと思うので、最後までお付き合いしてくださると光栄です！ (2021年8月20日 1時) (
レス) id: 2d5afa7553 (このIDを非表示/違反報告)
seayou(プロフ) - はじめまして！次の話をワクワクしながら読ませていただいてます！本当に面白くて、次の話を読むのが楽しみです！語彙がなくてこの素敵な作品を「面白い」としか表現できない自分が憎いです…これからも頑張ってください！応援してます！ (2021年8月19日 23時) (レス) id: 7ae5cb69bd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ベリーショート | 作成日時：2021年8月18日 3時
