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Aは急に声を掛けられて、驚いた。しかしすっかり酔ってしまっていたので、それほど抵抗無くこの状況を受け入れ、男と会話することが出来た。
「寒いです」
それを聞いてスーツのジャケットを脱ぐその男の体軀は、痩せてはいるけど貧相な印象がなくて、むしろ研ぎ澄まされたみたいだった。綺麗な顔立ちをしていて、男っぽくも無ければ、かと言って女顔というわけでも無い。不思議な魅力を持っていた。
男が脱いだ背広がふわりと肩に掛けられ、いくらか体温が上がるのを感じる。
「ありがとうございます」
こちらを見つめる男に、Aは微笑みかけた。
背広を脱いだ、紺色のフランネル素材のベスト姿は彼のすらりとしたスタイルによく似合っていた。
「初めまして、祐基です」
「君は?」と訊ねられる。
「Aです。新郎が大学でゼミの先輩でした」
「そっか」
そして二人は「乾杯」と言ってグラスを軽く合わせた。祐基は隣に並んで、先ほどまでAがしていたように手すりのそばに寄って、遠くを眺めた。
そんな祐基の横顔をぼんやりと見ていた。
暫く沈黙が続いて彼が
「稜雅幸せそうだね」と小さく呟いた。
「あんな顔初めて見ました」
Aは一瞬だけ稜雅を想う切ない目をしたが、すぐに祐基に視線を戻した。
しかし祐基はその瞬間の、彼女の瞳の奥に浮かんだ悲しみの色を見逃さなかった。
「ちょっと寂しいね」
整った祐基の横顔が眉を下げてくしゃりとした笑顔を作った。可愛らしいな、とそれを見て思った。
「はい」
何だか照れ臭くて「そんな事ない」と否定しようかとも思ったが、嘘はつかずに正直に答えた。
祐基は小さく頷きながら、宙に向けていた視線をAに移した。
いつの間にか辺りには誰もいなくなっていた。今がパーティということも忘れて、静かな世界に二人きりみたいだった。
冬の夜の暗がりの中に二人はその場に佇み、暫く互いに見つめ合った。
「…だけ…」
Aが小さな声で言った。
「え?」
「…少しの間だけ、暖めてください」
か細い、白い腕が二本祐基の前に差し出される。しなやかな植物の蔓のように。
祐基はしばし見惚れてから、そっと背中から腕を回して引き寄せた。
Aはそのまま甘えるように祐基の胸に頬を寄せて、瞳を閉じた。彼の心臓がどきどき跳ねる音がほとんど聞こえるようだった。
祐基の甘い、爽やかな香水がふわりと香った。
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ゆるり(プロフ) - 三谷さん» ありがとうございます!コメント励みになります! (2019年11月11日 23時) (レス) id: ae282f000e (このIDを非表示/違反報告)
三谷(プロフ) - めちゃくちゃいいです…ユーキ推しにとっては最高です…これからも更新頑張ってください!応援しています! (2019年11月11日 20時) (レス) id: c80e5d51b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆるり | 作成日時:2019年10月30日 2時