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「待たせてすみません、実弘先輩。」
「さっさと見回り行くぞ」
「はい。」
制服に身を包んだ二人の若い警察官。
一足遅れてやってきた彼が手にした珈琲缶とココア缶。その内の甘いほうを彼から受け取ると、実弘はその強面を僅かに綻ばせた。
「相変わらず甘いの好きっすよね〜」
「うるせぇ早く乗れ」
「はいはい。」
彼らは職務面では上下関係にあるが、蓋を開けてみればその信頼は実兄弟にも勝るほどのもの。
実弘の憎まれ口は愛情の裏返しであると知っている後輩の彼もまた、その顔に見合わぬ笑顔を浮かべた。
「おい見ろよ、今年は随分咲くのが早えな」
「……あぁ、ほんとですね。」
「暖かくなってきたし、体調気ぃつけろよ」
「……ふふ、そっすね。」
「おい何笑ってんだ」
くすくすと笑い出す後輩を横目に、安全運転を配慮しつつも実弘は尋ねた。
「いや、なんか先輩っていっつも発言がおじいちゃんみたいで。」
「んだと……?」
「褒めてるんすよ!!見かけによらず風流な人だなって!」
「見かけによらずは余計だ」
実弘は幼い頃から自然を眺めるのが好きだった。理由は彼にも分からないが、心の奥が心做しか温かくなるから。
春は彼の好きな季節だ。
「……いねぇな」
ハンドルを握る手が力む。穏やかな心持ちとはまた別に、彼らには仕事がある。
「…………まあ気長に」
ばん!!
という音と同時に視界に飛び込んでくる赤色の瞳。見慣れた制服。
車体に手を付き、くるりとその身を回転させて道路を横断する人影。
「あー すみませーん」
さして悪びれる様子も見せず、口先だけの謝罪を述べた男子高校生は颯爽とその場から去っていく。
その後もクルクルと身を翻しながら、アクロバティックに町内を駆け回る。
何が起こったか理解出来ぬのも束の間。実弘の額に青筋が浮かび上がる。
「絶対アイツだな……7件通報来てる高校生は……」
「はい……。」
「一瞬撥ねたかと思ったじゃねぇか馬鹿野郎が……」
直ぐ様パトカーのサイレンを鳴らし、その男子高校生の後を追う二人。
(…………しかし、まあ)
実弘の口の端が僅かに緩む。
(これくらい平和な春の日も、悪くはねぇかな)
夜は明ける。想いは不滅。
「ハイちょっと止まりなさい、そこの───────」
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時