春の消失点. ページ42
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｢ね、実弥さん。｣
柔らかな空気が縁側に落ちる昼下がり。
とある若い夫婦が寄り添うように陽に当たっていた。
時間が止まってしまったのではないかとも思えてしまうような穏やかな日だった。女は幸せそうに目を細めて、隣に座る男の肩を揺らす。
｢ほら、あれ見て。植えたお花、綺麗に咲きましたよ。｣
｢……あぁ、ほんとだ｣
｢そう言えば先月、お隣にお子さんが生まれたんですって。今度お祝いの品を持っていきましょうか。｣
｢そうだな。｣
｢…………実弥さん？｣
自身の問いかけにくぐもった声で答える彼を見て、女は不安の色を見せた。
覗き込むように顔を寄せると、微睡む彼が伺えた。
｢ねぇ、いけないわ………まだ冷えるからお体に触ります。｣
｢いや……、……なんか……眠くっ、て｣
｢…………駄目よ。お昼用意したのよ。ねぇ、実弥さんが好きなもの、沢山つくったの……だからっ｣
｢……大丈夫だ、…………少し……
…………少し眠る……だけ、……だから。｣
肩を揺らせど、声をかけれど。
男の声は次第に小さくなり、遂には喉の奥に落ちてしまった。
聞こえることの無い寝息。
女は静かに目を閉じた。
｢…………実弥さん。｣
春が連れてきたのは美しい女性。
春が連れ去ってしまうのは大切な人。
｢私、貴方に会えて本当に良かった。｣
だからどうか。
春が貴方を連れ去ってしまう前にと、彼女は。
｢愛してるわ、実弥さん。｣
───────……俺も愛してる、A。
声が風に溶けて、それきり。
膝の上に桜の花が落ちても、女が静かに涙を流しても。
そうしてそのまま日が暮れて、夜が更けて、朝が来て。
いつまでも、いつまでも、永久に彼が動くことはありませんでした。
そうして彼女もまた、ずうっと、ずっと、彼の手を握って離しませんでした。
＊
大正──年──月──日
鬼殺隊 元風柱 不死川実弥
長きに渡り、身命を賭し。その役目を果たした後、最愛の女性と結婚。
ある春の日に、彼女の傍で静かに息を引き取る。
───────そんな彼の血を引き継ぐ子供が産声を上げたのは、それから数ヶ月後のこと。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました！！！ (2021年5月3日 19時) (
レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*ﾟOﾟ*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます！！お、落ち着いてください……！？笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです！！ (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆき
| 作成日時：2020年12月6日 17時
