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「………………A、でも一つだけ、聞きたいことがある。」
腕の中に収まる彼女に、ポツリと声をかける。
離れようとするAを引き留めていたかったけれど、話しづらくても困るだろうから俺はゆっくりと腕を解いて。
「俺はもう、長くない。」
ありとあらゆる重要な情報の欠如した一文。それでも互いに分かってしまうのだから、俺達の運命は悲しいくらいに決まっている。
「変わらないものなど無い。季節が変われば俺は歳をとる。そうして君を置いていく。」
変わらないものが無いという不変の事実だけが、ただ不条理に目の前に突きつけられていた。
俺がどんなに君を思っても。君がどんなに俺を思っても。過ぎた時間は戻らないし、朽ちゆく命も返らない。
それでも。
それでも俺は君が良かった。
限られた時間だからこそ愛おしい。終わりがあるから、今が美しい。
「…………それでも俺と、歩んでくれるか?」
君は、笑顔で。
「─────……勿論です!」
言葉を聞き終えるとほぼ同時。俺は再び彼女を抱きしめた。
この温もりが消えてしまわぬように。この幸せが無くならぬように。
俺はいつだって昨日の夜の裏にいた。
一度だって明日へ歩き出せなかった。
でも、そんな俺をAは未来へ導いてくれた。
終わらない夜などないと君が教えてくれた。
変わらない気持ちがあると君が教えてくれた。
明日が楽しみだと、君と一緒だからそう思えた。
俺は今、未来を生きている。
「……A」
「ふふ、なあに?実弥さん。」
「どこにも行かないでくれ。」
「私はずっと傍にいますよ。」
「A」
「……実弥さん。」
愛おしい彼女の声に寄せられるように顔を向ける。
きつく抱きしめていた俺の腕の中で、やけに幸せそうな笑みを浮かべたAと目が合った。
誰よりも美しい、俺だけの奥さん。
朝がもう、そこにあった。
朝焼け色に染まる部屋の中。差し込む朝日に隠れるように、俺たちは初めての口付けを交わした。
俺の長い夜が消えた、最初の日。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時