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腰の辺りまである布団を剥いで、俺は彼女と向き合うべく半身ばかりを傾けた。
ボロボロと溢れ出る涙を拭ってやるのもこれで終わりにしたいものだ。
「……だって、……っ、私はっ…………
私はっ、実弥さんのことがっ」
「言うな。」
紡ぐ言葉に蓋をするように、彼女の口を手で塞いだ。
深みを帯びた夜明け前の闇が俺たちを包む。夏が近い。カラリと乾いた風が一つ吹きすぎる。
全てを話した俺に残る、たった一つ話していないこと。
君のいない数日間、消えることのなかった気持ち。それどころか日を追う事に膨れ上がって、もう一人じゃ手に負えなくなったこれは。
「好きだ。」
もうこの気持ちに嘘をつくことなんて叶わなかった。許されることならこのまま今すぐにでも君を連れ去ってしまいたい。こんな呪われた体も、命も。全てを投げ打って君と逃げ出したいくらい、俺は
「A、愛してる。」
夏が来たと隣で笑うのはAがいい。
過ぎ行く時間を惜しみながら、日々のささやかな幸せを分かち合うのはAがいい。
もし一つだけ。こんな俺にも、一つだけ願いが叶うのだとしたら。
「この先の人生を、Aと生きたい。」
長い長い俺の夜に、一筋の光が差し込んだ。
「…………実弥っ、さん」
「だから泣くなっての……、笑ってた方が可愛いつってんだろ」
「違うっ…………、違うのっ」
Aはもう溢れ出るそれを拭おうともせず、ただ首を横に振って違うと漏らす。
徐々に明るみ始めた空気が緩む。微かな光が彼女の頬に照らされてより一層美しく。何だか幻想的な夢でも見ているような心地だ。
「…………どうしようっ、…………私、嬉しくって……」
「……あぁ」
「私もっ、……私も大好きです……。
…………この先の人生、貴方の傍に居させてくださいっ、」
絶えぬ泣き顔がみていられなくって、俺はとうとう我慢できずにAを抱き寄せた。
細い。相変わらず折れそうなほど。
ぎゅうと強く抱き締めれば、それに応えるように背中に回った手。
体全身に温もりを感じて、もう彼女以外に何もいらないと本気で思ってしまって。
どうしようもなくAが好きだ。もうどうなっても構わないとさえ思った。
俺がいて、Aがいる。
それ以外は、望まない。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時