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潤いの無い声が一音、また一音と畳を濡らしていく。時々歯切れが悪くなったり、目が覚めたばかりで上手く言葉にならなかったりと拙い俺の喋りを、Aはただ傍で聞いてくれた。
全てを話した。
半生やそれに伴う幾多の後悔。そしてこの先を生きることへの不安や、苦しみも。
話している途中は、もう俺が俺でなかったような気がする。だって心の中のことなんて、この先一生抱えたまま死んでいくと思っていたから。
初めて。本当に初めてだった。
「……俺は幸せになっちゃいけない」
「私は生きていて良い人間ではないのです。」
いつかどこかの、誰かの言葉。
「俺にはもう、何も残っちゃいない。」
「私にはもう、帰る場所などないのです。」
言葉が尽きると同時に、俺は俯いて手元を見つめた。情けない手。数日間碌に食事をしてなかったとひと目でわかる病弱な手。
怖かった。
Aの顔を見るのが、怖くて。
「………………ない」
音になる前に溶けた言葉。
微かに震えた彼女の口元が見えた、気がした。
「…………そんなこと、あるわけないでしょっ、…!!」
「………………っ、」
悲痛な彼女の声。
俺が酷いことを言ったあの時よりも、その声は悲痛だった。
なぁ、何でだよ。
「……実弥さんはっ、……。実弥さんは素敵な人です!!……だからっ、……」
お前だって今まで辛い目に会ってきただろう。
どんなに虐げられても、それさえ受け入れて声をあげずに来たじゃないか。
「幸せになっちゃいけないなんて…………そんなことある訳ない!!」
何で自分の事じゃないのに、お前は、そんなに。
「実弥さんは頑張ってきた……!!……例えその奥に多くの犠牲があろうとも……、残された貴方はその分、いや、それ以上に苦しんだのに!!」
もう、いいよ。
「───────…………私はっ、
…………実弥さんに幸せになって欲しいです……」
感情の波に乗せられた言葉がピタリと止まり、その奥底にあったのだろう最後の言葉が溢れ出る。
Aは泣いていた。
他人の。たかが俺の過去を思って、涙を流した。
「…………おい、泣くな」
「だ、だって……っ、」
「お前に泣かれたら俺が困る。」
もう君を泣かせたくない。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時