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一頻り全てを吐き出した奥さんは固く目を閉じて天を仰いだ。そして僅かに残った目じりの雫を拭って、数秒。自身の腹を心底愛おしそうな顔で摩っていた。




「………あの、……もしかして」




言葉を言い終えるより先、彼女が小さく頷く。それ以上言うのは野暮だろうと思い言葉をしまう。

思わず漏れてしまいそうになった祝福の言葉を喉の奥に沈めた。今日に限っては、その言葉だけは口にしてはならないから。




「お医者様は、まだ日も浅いから分からないと言うんです。それでも、私には分かるんです。」



彼女の声が先程と違い何とも芯のある声になったから。俺まで思わずわかった気になってしまう。奥さんは母親の顔つきだった。




「お腹からは、義勇さんと同じ温かい音がします。」




俺でもない、奥さんでもない心臓の音を遠くに聞いた、気がした。


そんな訳ないんだろうけれど、俺はこの時ばかり幻聴に一理を見出したことは無い。


きっと新しい命がそこにある。




「悲しくないとは言いません……。ですが、確かにこの数ヶ月間、私は幸せでした。」




彼女の遠い目は、きっと過去の思い出を懐かしんでいる。日だまりのような優しい目に、俺はかつての冨岡を重ねずには居られなかった。




「そうして今、彼はその幸せを私に託してくれたんです。



─────私はこの子と、未来を生きます。」





俺はやっぱり、人の気持ちに聡くなんてなかった。



だって奥さんが。


彼女がこんなにも確固たる思いであの“覚悟”という言葉を使っていただなんてゆめゆめ考えもしなかったのだから。



冨岡の言う通りに強い人だった。


優しい人だった。


素敵な人だった。



全てが冨岡の言う通りだったと思ってしまう寸前。俺はただ一つ、彼奴の間違いにたどり着いた。



お前はその命が尽きるまで奥さんを愛するとそう言っていた。確かにお前はそれを守った。けれどもそれは何一つ正しくなんてない。


お前の命が尽きたその後も、彼女は背負い続ける。その腹の子と共に、一生過去のお前に縋って過去を生きるんだ。



お前はずっと過去にいる。そうして二度と時が動くことは無い。




お前が残したのは、幸せでも、愛でもなんでもない。





(…………これじゃあまるで呪いじゃないか。)





貴女(奥さん)の未来を奪う、残酷な呪いだ。




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設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川実弥   
作品ジャンル:恋愛
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時

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