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彼の死が書かれた手紙は葬儀の日付と場所を伝えるだけの簡潔なものだった。嫌な程にあっさりとした文面だったから、俺はまるで信じられる気がしなくて。
通夜の日も、静かな雨が降っていた。
話によれば、冨岡はそう苦しむこともなく亡くなったそうだ。
前日までは何食わぬ顔で生活をしていたらしい。最愛の奥さんの隣で、静かに静かに暮らしていたらしい。
そうしてある朝、とうとう彼は目を覚ますことはなかった。眠るように死んだ。彼はもう永久に昨日の夜を越えられない。
見知った顔がちらほらと目に入る。そう遠くない彼の死を皆は理解していたはずなのに、いざそれが現実になると受けいれるのは容易ではなかった。誰もが雨に隠すようにひっそりと泣いていた。
そして俺もまた例外ではなく、彼の死を何処か遠巻きに見ている自分がいた。信じられなかった。だって棺の中で眠る冨岡の顔があんまりにあの日のままだったから、揺らせば今にも起き出しそうで。
冷たかった。
もう声をかけても何も返してくれなかった。
冨岡は別れ際に「また」と口にした。俺も「また」と返事をした。
きっとあいつの言葉に嘘なんてなかった。最初から最後まで全て本当だった。
夏が来て、秋が過ぎ、冬が果ててもきっと会う気でいたのだろう。俺もそのつもりだった。こんなにも早く会うくらいなら、いっそずっと会わないままで良かったのに。
通夜を抜け出し俺は屋敷の外に出た。この時期独特の匂いが鼻につき、不快感を煽る雨が俺の心さえ濡らしていく。
抜け出したその先。玄関先で一人佇む女性が目に飛び込んできた。
─────冨岡の奥さんだ。顔なんて知らない。彼女の特徴も何も分からないけれど、俺は直ぐにそうであると分かった。
何も言わずに帰るのもどうかと思い、俺は彼女に近づいた。向こうも向こうで俺の気配に気が付き、数歩離れたまま視線が重なる。薄灰色の瞳が俺を見て、その端正な顔を歪めた。
「………貴方、義勇さんの……。」
「不死川です。」
「あぁ、貴方が……。」
「この度はご愁傷さまでした。」
今日の間に既に何度言われたか分からない言葉なのだろう。彼女はもう何を返すでもなくその目を伏した。
冨岡の言う通りに綺麗な人だった。ただ、冨岡の言うような笑顔や性格は微塵も感じられなかった。
(…………当たり前、か)
彼女の心にもまた、雨が降っている。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時